陣太鼓ー海運は一つだ
BMM出陣でござる。
日向キャプテンが倒れた——その報せは、社内だけでなく全船へ瞬く間に伝えられた。
「ほらぁ、言わんこっちゃない。どないすんねん、これー」
栗栖はモニターを見ながら盛大にため息をついた。そこには、本社から送られてきた新たな指示変更が表示されている。
「イギリス本社は、エリコ社長夫妻に応援頼んだそうだけど……」
シンシアはコンソールを握ったまま、疲れたように息を吐く。
エリコの性格は誰もが知っていた。赤ん坊を抱えながらでも仕事をするだろう。
だが、クリスタニアはまだ帰港途中。サウサンプトンまでは、まだ一週間ほどある。
クルーたちが頭を抱えていた頃、レイコはカフェラウンジで静かに窓の外を見つめていた。
「オーナーの一人として、見過ごすことは出来ないわね」
日向キャプテンが過労で倒れたため、クリスタニア到着後すぐにニューヨークへ飛ぶ者が必要だと、リヒトから聞かされていた。
だが、不安もある。ソブリンがイギリスへ到着する頃には、おそらく子供が生まれる。その間、リヒトなしで乗り切れるのか。不安しかなかった。
「レイコ。来月にはキョウコ夫人とエヴァンス様がロンドンへいらっしゃるはずです。我々男性では出来ることはありませんから、リヒトにはソブリンへ乗ってもらっては?」
エディの言葉に、レイコはそっとお腹へ手を当てた。
「ねぇ、しばらくママとお留守番になりそうよ。ソブリンとパパが来るまで、いい子にしててくれる?」
お腹の子は、しばらく静かだった。だが、渋々納得したように何度も元気よく蹴ってくる。
その様子を見たエディが、くすりと笑った。
「天使が納得してくれたんですから、大丈夫ですよ」
そこへ、リヒトが戻ってくる。
「すまん。晴海本社と話していた」
「ねぇ。クリスタニアがサウサンプトンへ着いたら、すぐニューヨークへ行ってちょうだい。ベビーが許してくれたわ。」
リヒトは静かに隣へ腰掛け、お腹へ手を当てた。
「クリスタニアはドックへ行くからいないが、ソブリンを連れてくる。ママといい子で待ってるんだぞ」
その瞬間、お腹の子が元気よくリヒトの手を蹴った。
クリスタニアには、不安と穏やかさが同時に流れていた。
一方、晴海本社では海運統括本部とBMMクルーズ本社によるWebミーティングが行われていた。
「エリコ社長。そちらから社員を晴海へ出向させるのは現実的ではありません」
葛城本部長は真剣な表情で、画面の向こうのエリコへ告げた。
「日向キャプテンのサポートには、弟の陽司くんを付けます」
「陽司さんはそちらの部門でしょう? いくら弟でも無茶ですよ」
「エリコ社長。陽司くんは、あぁ見えても元クルーズ部門です。キャプテンの仕事も理解しています。それから、ソブリンの副長たちも頑張ってくれたようでねぇ。レジェンディアクルーから元自衛官組を見つけてきたんですよ。二十名ほど。少々むさ苦しいですが、戦力にはなるでしょう」
エリコは少し驚いた顔をした。レジェンディアに自衛官出身者が多いことは知っていたが、二十名規模とは思っていなかったのだ。
「それなら何とかなりますね。ルイを行かせましょうか?」
「エリコ社長たちは、イギリス本社を見てください。ソブリンのサウサンプトン入港調整で、そちらも手一杯になるはずです」
その時、エリコの後ろで娘ブランシュを抱き上げたルイが笑った。
「こっちは任せてくださいよ。ボスが早く元気になるといいですね」
キャッキャと笑うブランシュの姿に、その場の空気が少しだけ和らぐ。
葛城本部長は静かに通信を切った。そして、眼鏡を外して立ち上がる。
「いいか!我がグループの海運は、一つだ!!」
低く、だが力強い声だった。
「皆、心して対応しろ!!」
その瞬間——まるで陣太鼓が鳴り響いたかのように、晴海本社の空気が一変した。
葛城本部長が戦国武将並に気合いをいれてくれたので、乗り切れるか…?
引き続きお楽しみに!




