あの日の面影ー日向キャプテンの憂鬱
無敵そうな日向キャプテンも色々限界です
影千夜と月乃が本社へ顔を出した翌日。
日向キャプテンは、部下の副長たちを執務室へ呼び出していた。
二階堂雄馬、神崎真琴。
いずれも海上自衛隊護衛艦出身の一等航海士である。
「失礼します! 神崎、二階堂両名入ります!」
キビキビとした声と共に、執務室の扉が開いた。
爽やかな風貌の二人だったが、その身体つきは制服越しにも分かるほど鍛え上げられている。
「二階堂、神崎。今回は次席キャプテンが不在だ。お前たちを中心に、副長たちで回してもらうことになる」
「承知しました!」
「その前に。お前たち、ダンスはラテンが得意と言っていたな」
「そのとおりであります!」
「今日からスタンダードの練習を始めろ。エレクトラの代わりに教官をつけてやる。自衛隊出身者のオフィサー全員だ。ルナディアのホールを使えるようにしてある」
「了解しました……」
「声が小さい」
「了解しましたぁっ!!」
二人は勢いよく敬礼した。
「ロビーへ行け。そろそろ教官が来るはずだ」
「失礼します!」
二人が退室すると、日向キャプテンは組んだ手を額へ当て、深く息を吐いた。
(ヴァルナーもヘンリー船長も不在だというのに……)
クリスタニアがサウサンプトンへ帰港後、三井たちクルーも呼び戻さなければならない。
ドック入りのタイミングに合わせて人員を振り分け、ソブリンの運航体制を整える必要がある。
しかも、自分自身もしばらく離れていた狂言の稽古を再開しなければならなかった。
祖父との約束だからだ。
弱音など一度も吐いたことのない男だったが——正直、限界は近かった。
ソブリンだけではない。
ルナディアの運航も控えている。
人員に余裕などないにも関わらず、ルナディアの先行予約はすでに埋まり始めていた。
その上——若き日の恋の面影まで現れた。
思い出したくないわけではない。
だが、整理がつかなかった。
(まいった……)
日向キャプテンはコーヒーカップへ手を伸ばし、そのまま再びパソコンへ向き直った。
⸻
その頃、本社ロビーでは——
美しい男女が、元自衛官クルーたちと挨拶を交わしていた。
「エレクトラさんの代わりにマイアミから参りました、ダンサーのグローリアと、パートナーのフランツです」
優雅に微笑みながら一礼すると、元自衛官クルーたちは、思わず見惚れた。
「本日よりレッスンを開始するよう言われております。皆さん、どうぞよろしくお願いしますね」
隣に立つ金髪の男も、静かに頭を下げた。
細身には見えるが、鍛え上げられた立ち姿から、自分たちの予想を遥かに上回ることは予想出来た。
元自衛官クルーたちは、まだ知らなかった。
この会社のダンス教官たちは——
全員が本物だということを。
筋肉ゴリラたちを立派な紳士にするために、猛特訓が始まります。
筋肉ゴリラたちは出港に間に合わせることができるでしょうか。
その前に、日向キャプテンが過労で倒れないといいのですが…




