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それからのクリスタニア〜静かな海に灯はともる  作者: chamoまる


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6/8

拒絶された招待 — 交わってはならない距離

来るはずのない人が来るとき、

それは偶然ではありません。


断ったはずの招待もまた、

別の意味を持ち始めます。


静かな海ほど、気を抜いてはいけないのです。

クリスタニアのブリッジには、静かな緊張が漂っていた。


低気圧は勢力を保ったまま、航路は封じられている。動けない時間が、船内の空気を重くしていた。


そのとき、本社からメッセージが入る。


『ドイツ連邦軍上級大将がポートサイドへ向かう。貴船にて歓待せよ』


三井が端末を覗き込み、目を見開く。


「……名前、確認いいっすか?」


栗栖が肩越しに見る。


「ラインハルト・ヴァルナー……」


一拍。


三井が顔を上げた。


「もしかして、キャプテンのお父さんじゃないっすか?」


栗栖は小さく息を吐く。


「たぶん、本社が一番ひっくり返ってる」


フレデリクが静かに言った。


「キャプテンにお伝えしてくる」



報告を受けたリヒトは、言葉を失った。


父――ラインハルト・ヴァルナー。


その名は、彼にとって家族である以前に、軍人としての象徴だった。


結婚の報告は、手紙で済ませている。それだけだ。船まで来るような男ではないことも、よく知っている。


「……キャプテンが、ヴァルナー閣下のご子息とは」


三井が思わず呟く。


リヒトはわずかに首を振った。


「気にしないでくれ。それより――突然の来訪ですまないが、父たちの対応を頼む」


船内は一気に慌ただしくなる。応接、警備、導線。すべてが組み直されていく。


その中で、レイコは静かに準備を進めていた。


サロンのテーブルに飾られるのは、ヤグルマギク。深い青。誇りと節度の色。


「お会いできるのが、楽しみね」


その声には、わずかな高揚が混じっていた。



同じ頃、Alluring。


「……断った?」


ヴィクトリアの声は低く、冷えていた。


「はい。来客対応のためと――」


報告が終わる前に、彼女は立ち上がる。


「生意気な……!紅海で英雄視されたからといって、あたくしの招待を断るとは!」


その瞬間、通信が入る。


差出人――DMC副社長、クリストファー。


「ラフィアン。クリスタニアに手を出すな」


ヴィクトリアの眉が吊り上がる。


「何故ですの?DMCの旗艦であるAlluringが、茶会に招待することに何の問題があるのです」


短い沈黙。


「お前とヴァルナーが同期なのは知っている」


クリストファーの声は感情を含まない。


「だが、お前が相手に出来る立場ではない」


「何ですって……?」


「イギリス艦隊司令の娘婿。ドイツ上級大将の息子」


一つずつ、事実を並べる。


「そんな男が船長なんだぞ。下手をすれば、我が社の損失になる」


一拍。


「異議は認めん。予定どおり出航しろ」


通信が切れる。


沈黙。


次の瞬間、乾いた音が響いた。ヴィクトリアの手にあったペンが、真っ二つに折れていた。


「船長……!」


部下たちが駆け寄る。その手は赤く染まっている。


だが彼女は、表情一つ変えずに言い放った。


「これは、あたくしの血ではないわ」


視線は、すでに遠くを見ている。


「我が社のプライドよ」


ポートサイドの夜は静かだった。


だがその静けさの下で、いくつもの意思が、確かに交錯していた。

距離を取ったつもりでも、

交わらないとは限らない。


拒絶されたはずのものほど、

強く意識に残るものです。


ポートサイドの夜は、まだ終わりません。

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