遺された愛—黒騎士たちの未来
リディア夫人は、最後まで総帥夫人の責務を果たそうとしていました。
クリストファーへの思いは届かぬまま。
リディア夫人死去。
その知らせは、DMCのグループ全体にもたらされた。
「こちらが、リディア夫人が残された遺書です。」
老齢に近い弁護士が、美しい便箋と大きな封筒をブラッドフォードに差し出した。
"夫ヴェガルドが遺したヘルストレーム家の遺産はDMC再建に役立てること。その使い道は新総帥ブラッドフォード氏に全権を委任する。なお私の私的資産は全て息子クリストファーに譲る。"
「…ヘルストレームの遺産…?」
「土地や邸宅、宝石類の売却を指示されておりましたが、およそ数百万ポンド程になる試算です。」
「…ありがたく使わせてもらうとしよう。リディア夫人の近況はどうだったのだ?」
弁護士は、静かに
ノルウェーで、クリストファーに拒絶されて以降、リディアは気落ちのためか体を悪くしていたこと。
夫ヴェガルドとも離れて静かに暮らしながら、少しずつ資産整理を進めていたこと。
クリストファーに最期まで会いたがっていたことを告げた。
「こちらが、クリストファー様宛のリディア夫人のお手紙です。送ることをお勧めしていたのですが、自分が亡き後に渡すようにと仰られて。」
ブラッドフォードは立ち上がり、静かに窓の外を見た。
葬儀もDMCの総帥夫人とは思えなほど簡素で、夫人の棺にはかつてクリストファーが幼い頃に描いた母の似顔絵だけが納められた。
「なんと切ない話だ。夫人がクリスを愛していたのは紛れもない事実だと言うのに…。手紙は私が預かろう。君には手間を掛けさせるが、ヘルストレームの遺産が片付くまで、手を貸してもらいたい。」
弁護士は静かに頭を下げた。
「畏まりました。何なりとお申し付けください。」
弁護士が退室すると、ブラッドフォードは、秘書にある人物を呼ぶよう指示した。
「…アルベルト船長ですか?」
「そうだ。我が社の騎士たちの未来を守ってやらねばならん。」
その頃、サウサンプトンに停泊したままのprisonerを眺める1人の男がいた。
「囚われる必要がなくなった俺たちは、どこへいくんだろうな。」
男は静かに呟いた。
「アルベルト船長、ブラッドフォード社長がお呼びです。
主要なオフィサーを連れて会議室に来るようにと。」
背後から、秘書が声をかけた。
「なぜ俺だけではないんだ?」
「社長のご意向は分かりかねますが、我が社の騎士たちの未来を守らなければと仰っておりました。」
男はそれを聞くと、指笛を鳴らした。
漆黒の船体から、何人ものクルーたちが降りてくる。
「キャプテン、お呼びで?」
「社長が話があるそうだ。主要なオフィサーたちは、俺と社長のところに行くんだ。」
男はまだ知らない。
自分たちが、いずれ北の白騎士と呼ばれるようになることを。
大帝国再建のため、ブラッドフォードがある決断をしました。
その決断とは。
次回もお楽しみください。




