触れてはならない港 — 静かな警告
海では、嵐よりも厄介なものがある。
名前も記録も残らず、
ただ静かに人を消していく存在。
見えているものだけを信じていいのか、
その判断が試される航海が始まります。
クリスタニア、船内。
嵐の気配とは裏腹に、空気は穏やかだった。だが、その穏やかさはどこか薄い。何かが、噛み合っていない。
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フォックスの端末に、メッセージが入った。送り主はローズ。短い一文だった。
『DMCには気をつけなさい』
フォックスの表情がわずかに強張る。
「……レイコお姉様」
「どうしたの?」
フォックスは一拍置く。
「DMCの副社長は先日のパーティーには参加しておりませんでしたが……非常に頭の切れる方で、とても恐ろしい方だとローズお姉様が」
レイコは首を傾げる。
「それとポートサイドに、何の関係があるの?」
「その副社長が寵愛している船長が、現在ポートサイドにいます。Alluringです。このままだと接触する可能性があります」
一瞬、空気が変わる。
「……噂があるんです。Alluringと接触した船のクルーや船長が、そのままDMCに移ったと。あちらの株主たたちの間でも、パンデミックから短期間で復活出来たのは、その剛腕さがあるからだと。」
沈黙。
「レイコお姉様は提督のご息女です。狙われる可能性があります。……もちろん、クリスタニアもです。」
レイコは小さく息を吐いた。
「……そう」
それ以上は言わない。ただ、説明のつかない不穏さが、船内に静かに広がっていった。
⸻
ポートサイド入港前日。
「レイコ」
リヒトの声は、いつもより低かった。
「……何?」
リヒトは迷いなく言う。
「あの船には近づくな。Alluringには、絶対に近寄るな」
強い言葉だった。
「……どうして?」
リヒトは答えない。
「……知っているの?あの船の噂を。」
リヒトはレイコの肩を掴んで言い聞かせるように言った。
「頼む。決して顔を出さないでくれ。」
それだけだった。
レイコは頷かなかった。ただ、静かに彼を見返す。
ポートサイドは、すぐそこまで迫っていた。
近づいてはいけないと分かっているものほど、
なぜか、そこに向かってしまう。
理由はまだ明かされていません。
それでも、
もう引き返せないところまで来ています。




