13ドルの夜 — 帝国の崩壊
本来、小規模子会社のTOBでは痛くも痒くもないはずのDMCでしたが…
父である社長に呼ばれたクリストファーは、Alluringの一室に入ると、久方ぶりに父の怒りに満ちた表情を見た。
(……いつぶりだろうな、この顔)
「父上、お呼びと聞きましたが」
ヴェガルドはソファーに座ったまま、低く口を開いた。
「キャピタル・ウォーデンがコラールだけでなく、我が社の支配下にあった5社を買収した。今の株価は13ドル台だ……」
クリストファーは息を呑む。
(あれほどの恐怖で支配したにも関わらず、寝返っただと……?)
「5社とも、お前が手に入れて来た企業だ。……番人は最初から狙っていたのだ……お前をな!!」
「なぜ私が狙われるのです!父上の望みどおり手に入れて来たではありませんか!」
「支配とは、その瞬間だけではない!」
ヴェガルドの声が室内に叩きつけられる。
「こうも簡単に離反されるなど、支配に値せん!!」
「父上!!」
「言い訳は無用だ!」
ヴェガルドは立ち上がり、一歩踏み出す。
「このままでは我がグループは存亡の危機だ!5社がBMMの軍門に下りでもしたら、BMMに攻撃を許すも同然なのだ!!」
さらに詰め寄る。
「貴様のことは経営執行から外す!今後勝手な真似をしてみろ!!親子といえど容赦はせん!!」
吐き捨てるように言い放つと、ヴェガルドはそのまま部屋を出て行った。
(なんだと……?)
全てを失ったクリストファーは動けず、その場に立ち尽くした。
その頃、ホールでは、DMCがキャピタル・ウォーデンに子会社の議決権を握られたという情報が静かに広まりつつあった。
気づいた者から席を立ち、気づいていない者も空気の変化にざわめき始める。
ゲストの数は、すでに半数ほどに減っていた。
船長ヴィクトリアは、笑顔を崩さぬまま、その手を震わせていた。
「キャプテン、どうか冷静に……」
副官のマックスが青ざめた顔で囁く。
「シンガポール出港を早めるわ。本社に連絡しておきなさい。それからゲストの確認も」
ヴィクトリアは小声で指示を出す。
(クリストファー……あなたもこれで終わりね)
その様子を、日向キャプテンは静かに見ていた。
やがて傍らのBMM社員たちに低く告げる。
「ソブリンは明朝出港する。乗船確認を進めろ。それから、Preceptのエヴェリーナ社長に、社長がお待ちしていると伝えろ。私は船に戻る」
同じ頃、エヴェリーナはヴェガルドと対峙していた。
「社長、クリストファー様のお姿が見えませんが、どうされたのです?」
「エヴェリーナ、心配をかけてすまんな。私が無理をさせたようだ。しばらく休ませようと思うのだ」
その表情は、息子を気遣う父親そのものだった。
「社長もお疲れのことでしょう。どうぞ、ご無理なさいませんように」
(何も起きなければいいけれど……)
同じ頃、キャピタル・ウォーデン本社からの連絡を受けたフリートヘルムは、ローズと会話を交わしていた。
「ローズ様、この後どうなさるおつもりですかな?」
「何もしませんわ。この有様ではパーティーはお開き。妹とディナーでもすることにします」
「おぉ、それはいい」
「近々、是非イギリスにいらして下さい。番人が納得するものがご覧になれますわ。……そうね、半月ほどかしら」
フリートヘルムは、わずかに目を細めた。
「是非お伺いしましょう。後ほど改めてご連絡いたします」
そう言うと、何事もなかったかのようにその場を去っていった。
DMCの危機は、やがてクルーズ各社の知るところとなった。
その多くは嘲笑を浮かべた。
ついに、番人が鉄槌を下したのだと。
その夜、華やかなパーティーは、無惨なものへと変わった。
クリストファーの剛腕で、短期間でパンデミックからの立て直しを図ることが出来たDMCでしたが、それは強権ゆえに脆すぎる支配てした。




