白と黒の決闘 — 薔薇は美しく咲く
ヴィクトリアは愛船の名誉を傷つけられ、怒っています。それでも平静を装うあたりはさすがですが…
パーティー開始前から、不穏な空気が漂っていた。
リヒトとレイコ、ローズとエディは、護衛を務めるロイヤルネイビーの武官たちを伴い、Alluringへと乗り込む。
黒い大理石。金色のシャンデリア。
艶やかな光が空間を満たしているのに、温もりはない。
リヒトはわずかに眉を顰めた。
(相変わらず支配的だな)
黒のスリットドレスにファーショールを羽織ったレイコが、その横顔を見て小さく言う。
「気持ちは分かるけど、船長らしくしなきゃ」
リヒトは短く息を吐き、表情を戻した。
ホールには深紅の薔薇が飾られ、ウェルカムドリンクにも花びらが浮かぶ。
甘い香りと華やかさに、招待客たちは上機嫌だった。
「さすがキャプテン・ヴィクトリアだ。夢のような豪華さだな」
その空気の中、クリストファーが現れる。
エスコートしているのは、プラチナブロンドの女性。
レイコは小声で尋ねた。
「あの方は?」
「副社長のクリストファーと、Preceptクルーズのエヴェリーナ社長よ」
ローズの言葉に、レイコはわずかに目を見開く。
母キョウコの知人だと気づいたからだ。
ローズはエディと視線を交わす。
「てっきりヴィクトリア船長をエスコートすると思っていたわ。……何か裏がありそうね」
その時、フリートヘルムが静かに近づいた。
「レディ。またお会いできて光栄です」
「こちらこそ、お久しぶりですわ」
穏やかな挨拶のまま、彼はわずかに身を寄せて囁く。
「今宵は特大の花火が上がります。我が社から」
ローズは何も言わず、ただ頷いた。
やがてファンファーレが鳴り、ヴェガルドが登壇する。
「本日は我が社の旗艦Alluring、5周年記念パーティーにお越しいただき、誠にありがとうございます。
本船の船長にして、我が艦隊の女王——ヴィクトリア・ラフィアン船長をご紹介しましょう」
現れたヴィクトリアは、黒と赤のスタンダードドレス。
その姿は、まさに女王だった。
リヒトが低く呟く。
「あいつ……本気だな」
ヴィクトリアは優雅に一礼し、微笑む。
「今宵は特別なお客様がいらしています。かつての戦友が、新造船を伴って駆けつけてくださいました。
彼はわたくしなど及ばぬほどのダンスの名手。素晴らしい舞を見せてくれるでしょう」
リヒトのこめかみに血管が浮く。
「来たな……」
その横で、日向キャプテンが静かに言った。
「ヴァルナー。主席命令だ。
BMMとソブリンの名にかけて——勝て」
「イエッサー」
リヒトは即座にレイコへ向き直る。
「あいつの得意はタンゴだ。ソブリンを見て頭に血が上っている。……リベルタンゴを出してくる」
その言葉通りだった。
ヴィクトリアはマクシミリアンを伴い、リベルタンゴを踊り始める。
鋭く、支配的で、官能的。
部下との距離の近さを誇示するような舞。
空気が変わる。
クリストファーはそれを冷たい目で見ていた。
(ラフィアン……貴様……)
リベルタンゴの旋律は、ヴィクトリアの妖艶な微笑みとともに、
決闘の始まりを告げた。
様々な思惑が交錯する夜会。
ヴィクトリアからの挑戦をリヒトは喜んで受けます。
日向キャプテンからの指令を完遂するために、リヒトが考えたこととは。次回お楽しみに。




