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それからのクリスタニア〜静かな海に灯はともる  作者: chamoまる


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3/5

幻影 — そこにいるはずのない船

海の上では、すべてが目に見えるとは限らない。


位置も、記録も、事実さえも。


それでも船は進む。

何を信じるかを、選びながら。

本社、タンカー部門。


一つの報道が、画面に表示された。


 


「……BMMの超大型タンカーDreamlandがホルムズを通過し、ムンバイに到着……?」


 


「……は?」


 


担当者はすぐに運航管理へ回す。


 


「Dreamland、確認して」


 


「……はい?」


 


キーボードの音が静かに響く。


 


数秒の沈黙。


 


「……いや、ペルシャ湾にいますけど」


 


「位置データは?」


 


「うちの管理システム上もペルシャ湾です。通信も正常。途絶えた様子はありません」


 


画面を見比べる。


 


確かに、そこにいる。


 


だが同時に、ムンバイ到着の報道も出ている。


 


「……ムンバイに“いることになってる”な」


 


誰も、すぐには言葉を続けなかった。


 


「本社コメント出しましょう。“そのような事実は確認されていない”で」


 


「誰がそんなこと言ったんだ、ほんとに」


 


「今は全部、疑ってかかれってことだな」


 


小さく、ため息が漏れる。


 



 


同じ頃、クリスタニアのブリッジ。


 


「……本社コメント出ましたね」


 


栗栖が短く伝える。


 


「“そのような事実はない”」


 


三井がモニターを見たまま呟く。


 


「……なんか、気味悪くないっすか?」


 


フレデリクが目を細める。


 


「Dreamland……夢の中か」


 


わずかに間を置く。


 


「いっそ、ファントムに改名するべきだな」


 


誰も笑わない。


 


栗栖が低く言う。


 


「通信の乗っ取りは考えにくい……となると」


 


言葉を切る。


 


「……データがどこかで書き換えられたとしか思えん」


 


「ジュン」


 


一等航海士シンシアの声だ。


 


「滅多なことを言うものじゃないわ」


 


「でも、おかしいやろ」


 


栗栖は視線を外さない。


 


「本社が24時間見とるのに、なんでムンバイにおることになってるんや」


 


沈黙。


 


誰も否定しない。


 



 


「……他も見てみます」


 


栗栖が操作を続ける。


 


別の追跡サイトを開く。


 


数秒。


 


「……ん?おかしいで、これ」


 


「何がだ」


 


「……これ」


 


画面を拡大する。


 


そこに表示されていたのは、ひとつの船名だった。


 


「……Revenant?」


 


谷屋が低く呟く。


 


「動いてるはずがないぞ。もう存在しないんだから。」


 


除籍されたはずの船。


 


それが——


 


確かに表示されていた。


 


ホルムズを通過した航跡として。


 


「……あり得ない」


 


「複数サイトで同じ表示や」


 


栗栖の声が、わずかに低くなる。


 


空気が変わる。


 


「……冗談じゃないな」


 


フレデリクの声が落ちる。


 


三井が息を呑む。


 


「……なんすか、これ」


 


誰も答えない。


 


ブリッジに、冷たい静けさが落ちた。


 


背筋に、じわりとした感覚が走る。


 


それは、恐怖に近いものだった。


 



 


ペルシャ湾。


 


三千を超える商船が、静かに動いている。


 


それが現実なのか。


 


それとも——


 


誰も、確信できなかった。

そこにいるはずのないものが、表示されることがある。


それが誤りなのか、

それとも——


まだ、分からない。

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