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それからのクリスタニア〜静かな海に灯はともる  作者: おーがすてぃーぬ


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29/101

白薔薇の後で—現れた帝国包囲網

いよいよソブリン出港です

翌日——いよいよ出港時刻が迫る。


ソブリンでは、リヒトたちが慌ただしくスタンバイを進めていた。


その合間を縫うように、レイコはクリスタニアへ向かう。


白薔薇と天使の絵を差し出し、


「船長室に飾っておいてほしいの」


静かに、シンシアに託した。


シンシアはその絵を見て——すべてを悟る。


(あぁ……そういうことだったのね……)


胸の奥で、わずかに息を呑む。


(辛かったでしょうに)


「……分かりました」


それだけを返し、静かに絵を受け取った。


⸻


レイコはクリスタニアに、しばしの別れを告げる。


そして——戦場となるソブリンへと乗り込んだ。


用意されたVVIPの一室は、クリスタニアとは比べ物にならないほど豪華だった。


だが、レイコはそれに目を奪われることはない。


静かに、机の上の書類へと視線を落とす。


乗船ゲストのリスト。


そこに——姉、ローズの名前。


さらに、宝石商のマダム。


そして。


キャピタル・ウォーデン取締役、

ベルンハルト・フォン・フリートヘルム。


(ウォーデン……)


わずかに目を細める。


(このところのDMC株急落に、関係しているのかしら……)


思考はすでに、戦場のそれだった。


レイコは静かに封筒を取り出す。


——茶会の準備を始めるために。


⸻


「ロバート」


「お姉様、お呼びですか?」


「ローズお姉様はエディと乗るのよね? お姉様とお茶したいの。今夜はパーティーがあるから、その前はどうかお聞きしてくれる?」


封筒を差し出す。


「それから、株主の皆さんに明日の午後お茶会のお誘いをお願い。お招きしたい方のリストよ」


フォックスは一瞥し、静かに頷く。


「パーティーまで時間はございます。先にお部屋へお招きしては?」


「そうね、それでお願い」


短く指示を終えると、レイコはロビーへと向かった。


⸻


やがて、ゲストの乗船が始まる。


タラップの先で、リヒトと並び出迎える。


「おぉ!ヴァルナー航海士!いや、今は船長になられたのでしたな!」


「レジェンディアでのロマンスが、紅海での英雄譚になるとは!」


「恐れ入ります。ごゆっくりお過ごしください」


リヒトは、船長としての顔で応じる。


その立ち居振る舞いには、もはや迷いはない。


⸻


そこに。


深い金色の髪を持つ、上品な女性がエディを伴って現れる。


「お姉様!!」

「レイコ!心配してたのよ!元気そうで良かったわ!」


「初めまして、ローズお姉様。レイコの夫、リヒトです」


「ごきげんよう。姉のローズです」


優雅に微笑む。


「やっとゆっくりお会いできましたわ、プロイセンの騎士様」


ただ者ではない——そう感じさせる気配。


「お姉様、このあと私の部屋に来てちょうだい。後でロバートを迎えに行かせるから」


小さく告げる。


ローズはわずかに頷き、リヒトと視線を合わせた。


「シンガポールでこの船に手出しはさせないから、安心して」


声は穏やかだが——内容は鋭い。


「日向キャプテンにもそう伝えてちょうだい。詳しくは後で話すわ」


⸻


その少し後。


白髪混じりの精悍な男が、タラップを上がってくる。


「あれは……」


一瞬だけ、レイコの表情が変わる。


だが、次の瞬間には完璧な笑顔に戻っていた。


「ごきげんよう、ヘア・フリートヘルム」


「ごきげんよう、レディ・オーガスティア。この度はご結婚おめでとうございます」


「ありがとうございます。わたくしの夫が、本日船長を務めますの」


「ヘア・フリートヘルム、初めまして。船長のリヒト・ヴァルナー・ハワードです」


「ヴァルナー?我が国の上級大将のご子息かな?」


「父をご存知とは光栄です」


「父君をドイツで知らない人間はいませんよ。まさか、オーガスティア嬢の夫君になられたとは」


「祖国の方にご乗船いただけて光栄です。ごゆっくりお寛ぎください」


フリートヘルムは、にこやかに微笑みながら船室に向かった。


⸻


全員の乗船を確認し終えると


レイコは、静かにリヒトへと告げた。


「手が空いたら、部屋に来て」


その声音は、穏やかだった。


だが——


その表情は、かつてレジェンディアで見せた


“投資家”の顔だった。

レイコにとっての戦場。

それはリヒトには苦しいものになるかもしれません。

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