見えてはいけないものーすでに支配下にある
ゴードン次長の勘。クリスタニアから何を感じたのでしょう。
金融市場の恐怖をどうぞ
そして迎えた出港前日。
クリスタニアとソブリンは、それぞれ出港準備に追われていた。埠頭では、ゴードン次長がクリスタニア機関長の谷屋と話している。
「……あの若いのが乗らねえから、少しは機嫌が悪くなると思うがな。問題はねぇだろう。だが——少しばかり気になることがある」
「何ですか?」
谷屋が視線を上げる。
「スタビライザーだ。酷使してるからな。異常はなかったが……何でか違和感が拭えねぇ」
谷屋は小さく頷いた。
「クリスタニアなら、他でカバーできます」
だがゴードンは、海の方へ目をやったまま動かない。
「……それでも、引っかかるんだよ」
⸻
その頃、ソブリン船内。
日向キャプテンとリヒトは、クルーを前にブリーフィングを行っていた。軍出身者が多いせいか、空気は張り詰め、まるで軍艦のようだった。
「……以上だ。シンガポールでは埠頭の警備も厳重にしてある。くれぐれも警戒を怠るな」
短く、しかし重い言葉。
ブリーフィングを終えた日向キャプテンは、そのままブリッジへ向かい、機器を一つ一つ確認していく。
「ヴァルナー」
「はい」
「船内パーティーのことだが、ファーストダンスに宮廷舞踊を選んだそうだな」
「妻の提案です」
「その様子を中継する。こちらに意識を向けさせれば、クリスタニアの意図を読まれる可能性は下がる」
「承知しました」
一拍置いて、日向は視線を向けた。
「……DMC出身のお前に、対DMCの先兵を任せるとは思わなかったがな。ニューヨークの件は、これで水に流してやろう」
リヒトがわずかに眉を寄せる。
「ニューヨーク……?」
「ゲストを全員下船させろと指示したのに、オーガスティア様だけ残った件だ。ソブリンでは、そのような例外は認めん」
「しかし、あの時は——」
「あの時どうだったかは関係ない」
冷たく言い切る。
「この船では、どんな弱点も排除する」
それは命令ではなく、原則だった。
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同じ頃、ニューヨーク。
大手投資ファンド、キャピタル・ウォーデンが動いていた。DMCの子会社となっているコラールラインをはじめ、複数の企業に対して、静かに、しかし確実に買収が進められている。
市場はまだ、それに気づいていない。
いよいよシンガポールへ!




