ひまわりか金色かー14ドルの境界線
結局、リヒトはヤキモチ妬き。
そしてクリストファーは、本気の恋をしていたようですが…
宮廷舞踊をファーストダンスに決めたリヒトとレイコは、合間を縫ってエディや領事夫妻のもとで特訓を重ねていた。
思いのほか筋が良かったのか、二人は短期間で形にしてしまっていた。
「ハワード閣下のご令嬢と、大将閣下のご令息による宮廷舞踊だなんて……まるで御伽話のようですわ」
領事夫人はうっとりと微笑んだ。
その言葉に、リヒトは軽く肩をすくめる。
「夫人のお陰です。これで、妻に恥をかかせずに済みそうです」
レイコはくすりと笑い、視線を逸らした。
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だが、問題は別のところにあった。
「だから、ひまわりよ!」
レイコがきっぱりと言う。
「日向キャプテンの名前から取るなら、それが一番自然だわ。主席としての面目も立つでしょう?」
「夫は俺だ!なんで日向キャプテンのメンツを君が考えなければいけないんだ!」
リヒトは即座に返した。
「船長夫人のドレスなら、金色だろう」
互いに一歩も引かない。
「だから、なんで金色なのよ!」
「俺の髪の色だからだ!」
しばらく沈黙が続いた後、見かねた領事夫人が口を開いた。
「……同じ金でも、この黄色はどうかしら?」
柔らかな声だった。
「ひまわりのような黄色に見えますけれど……よく見ると、キャプテンの髪の色に見えませんこと?」
差し出されたドレスは、やわらかなシルクの黄色。
光を受けると、まるで金のように輝く。
立体的にあしらわれた薔薇には、繊細な金の刺繍が施されていた。
レイコは目を細める。
リヒトも、無言でそれを見つめた。
——答えは、もう出ていた。
⸻
その頃。
シンガポールでは、Alluringが静かに入港していた。
タラップを降りたクリストファーは、そのまま迎えの車へと乗り込む。
ドアが閉まり、外界の音が遮断される。
車が走り出す。
ふと、窓の外に視線を向けた。
——見覚えのある、プラチナブロンドの長い髪。
ほんの一瞬、時間が止まる。
「……まさかな」
低く呟く。
「エヴェリーナがいるはずがない。似ている女など、いくらでもいる」
自分に言い聞かせるように、視線を切る。
だが——
完全には、切れていなかった。
瞳の奥に、わずかな違和感だけが残る。
ゆっくりと目を細めた。
「今回の目的は、クリスタニアの弱体化……」
低く、抑えた声。
「これまでどおり——いや、それ以上に恐怖を味合わせてやる…。今度こそ…」
その声には、確かな執着が滲んでいた。
⸻
その間にも。
DMCの株価は、静かに、しかし確実に下落を続けていた。
誰にも止められない速度で。
デッドラインとされる——十四ドル。
その水準が、目前に迫っていた。
下落か。
破壊か。
それとも——崩壊か。
まだ、誰もその答えを知らない。
リヒトとレイコの意味が分からないケンカはさておき、クリストファーが歪みに歪んだ理由が明らかになっていきます。
引き続きお楽しみください。




