船長と天使—パパはママが大好きだねー
レジェンディアより愛をこめて以来、久しぶりにレイコの小悪魔ぶりに振り回されるリヒトをお楽しみください。
クリスタニアのVVIPスイート。
船長夫人のための部屋となりつつあるその空間に入るなり、レイコはリヒトの首に手を回した。
「会いたかったわ」
顔を擦り寄せるレイコを、リヒトは優しく抱きしめる。
「体調はどうだ?」
レイコはすぐに答えなかった。
「レイコ?」
ぽろぽろと涙を溢しながら、レイコは言った。
「……ごめんなさい。私があなたを恋しがったせいなの」
「どういうことだ?」
「赤ちゃんは……いなくなってしまったのよ……」
リヒトは言葉を失う。
「私のせいよ……。私があなたを恋しがったから……あの子は、まだ来ちゃいけないって思ってしまったんだわ……」
何度も自分を責めるレイコを、リヒトは強く抱き寄せた。
「誰かさんと違って、聞き分けのいい子だったんだな」
静かに、けれど確かに言う。
「また会えるさ。俺がまだ足りないんだ。パパのお願いなら、きっと聞いてくれる」
レイコは何も言わず、ただ彼にしがみついた。
⸻
深夜。
リヒトは窓辺に立ち、月を眺めていた。
グラスの水を一口飲み、静かに目を閉じる。
(……すまない。俺がまだママを独占したいんだ)
背中に、柔らかな温もりが触れる。
「綺麗な月ね」
「レイコ。頼みがある」
「なぁに?」
「船長夫人として、俺とソブリンに乗ってシンガポールに行ってくれ」
レイコは驚いたように目を見開く。
「ソブリン……?」
初めて聞く名前だった。
リヒトはその手に自分の手を重ねながら、極秘で建造された指揮艦であること、クリスタニアの代わりにシンガポールへ向かうこと、パーティーのゲストを乗せるためホスト役を務める必要があることを説明した。
「エヴェリーナ……?」
「知っているのか?」
「少し前にキョウコお母様からメッセージが来たの。お友達なんですって」
「それなら安心だな。君の父上と母上にも早くお会いしたいものだ」
「あ……!!」
「どうした?」
「それなんだけど……お父様とお母様、シンガポールに来るって……あなたに早く会いたいってお父様が言ってたって……」
レイコはゴニョゴニョと小さく言った。
「……忘れてたのか?」
「だ、だ、だって……あなたが帰ってくる方が嬉しくて……その……すごく会いたかったんだもの……」
子猫が鳴くような小さな声でさらに続けるレイコに、リヒトは呆れたように言った。
「相変わらず俺の奥さんは、俺のことになると大事なことを忘れるらしいな」
⸻
翌朝、二人はマンションへ戻った。
「見せたいものがあるの」
寝室に入ると、白薔薇の花園で微笑む天使の絵が飾られていた。
リヒトは言葉を失い、そっと手を触れる。
「……この絵を、クリスタニアの船長室に飾ってもいいか?」
「えぇ。パパと一緒なら、この子も喜ぶと思うわ」
レイコは小さな箱を取り出し、サイズの直った指輪をリヒトの指にはめた。
「そういえば、クリスタニアがイギリス船籍になる。知っていると思うが、新設されるBMMクルーズの所属になる。本社はロンドンだ。移籍が済んだら式を挙げようと思う。どうだ?」
「サウサンプトンに? そこなら誰もクリスタニアを苛めたりしないわね。もちろんよ。やることがたくさんね!」
⸻
リヒトはエリコ常務に了承を伝え、パーティーの準備に取りかかった。
だが——
レイコが用意したドレスを見た瞬間、顔を顰めた。
レイコは小悪魔のように笑う。
「作戦があるの。私に任せて」
リヒトは盛大にため息をつく。
久しぶりに、頭痛の気配を感じていた。
(バルセロナといい、ニューヨークといい……なんでこんなに小悪魔なんだ)
白薔薇の花園で微笑む天使は、
そんなママが大好きなくせに!——と思ったに違いなかった。
レイコは小悪魔です。
レジェンディアより愛をこめてでは、レイコに翻弄される航海士時代のリヒトをお楽しみいただけます。
どうぞ、存分に悶絶してください。




