ソブリン起動—運命の配船—
過去編でもちょっと触れていますが、
『ソブリン』いよいよ登場です
晴海に着いたクリスタニアを待ち構えていたのは、日向キャプテンだった。
リヒトが下船するなり——
「ちょっと来い」
短く言い、連れ出す。
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人気のない場所で足を止めると、日向は険しい顔のまま口を開いた。
「今度のDMCのパーティーだが、Preceptのエヴェリーナ社長が参席するそうだ」
リヒトは、わずかに眉をひそめる。
「それが、うちに何の関係があるのです?」
「Preceptは極秘で、社長同士の会談を要請してきた。シンガポールからクリスタニアで日本に来ることを希望している」
一拍。
「本来なら、我が社もそこでソブリンを投入するはずだったが……」
リヒトの表情が変わる。
「ソブリン? あの極秘で建造していた大型船ですか」
「そうだ。フランスから日本へ向かっている最中だ」
「社長はなんと?」
「クリスタニアはシンガポールへ行かせないと言っている。DMCから守るためだそうだ」
リヒトは一瞬、言葉を選ぶように沈黙した。
「……では、どうするのです。私にはソブリンの指揮権はありません」
「運航統括と協議した結果だ」
日向の声は変わらない。
「今回はソブリンの主席は私、次席はお前にする」
その一言で、空気が変わる。
「詳しい話はオフィスでする。後で私の部屋に来い」
それだけ言うと、日向は足早に去っていった。
⸻
背中を見送りながら、リヒトはしばらく思考を巡らせる。
やがてインカムに手をやった。
「シンシア」
「なんでしょう、キャプテン」
「しばらくの間、フレデリクと二人でクリスタニアを預かってくれ。恐らくレジェンディアと神戸に行くことになる」
一拍。
「俺はソブリンの次席として、日向キャプテンとシンガポールに向かうことになったそうだ。」
わずかな間の後、シンシアは静かに答えた。
「……承知しました」
それだけで通信は切れる。
極秘で進められていたソブリンの建造。
ロゼリアが囮となり、クリストファーの目を欺くことに成功していたのだろう。
リヒトは小さく息を吐いた。
ふと振り返り、クリスタニアを見上げる。
「良かったな」
誰にも聞こえない声で呟く。
「お前のご主人様は、お前が嫌いな場所には行かせないそうだ」
そう言って、オフィスへと歩き出した。
⸻
その頃。
レイコのもとに、一通のメッセージが届く。
差出人は母、キョウコだった。
『Preceptのエヴェリーナという女性と、シンガポールで会うと思うわ。私の友人の一人でもあるの。楽しみにしていてね。それから、ママとパパもシンガポールに行くことにしたの。パパがあなたの旦那さんに会いたいといって聞かなくて。良かったら、久しぶりにディナーでもどうかしら?』
読み終えたレイコは、ふっと笑う。
「……パパらしいわね」
エディが控えめに声をかける。
「そろそろクリスタニアが戻る頃です。お迎えに行かれますか?」
「ええ、行くわ」
レイコは嬉しそうに頷き、軽やかに立ち上がった。
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一方、BMM本社。
日向キャプテンの執務室には、重い空気が流れていた。
葛城部長、エリコ常務、リヒト、ヘンリー船長。
それぞれが難しい顔で席に着いている。
テーブルの上に置かれた資料。
その中央には、大きくこう記されていた。
――SOVEREIGN
静かに。
しかし確実に。
次の局面が、動き始めていた。
通常、一気に新造船を複数デビューさせることはありません。




