静かなる采配—エヴェリーナの召喚—
レイコの小悪魔ぶりもなかなかですが、クリストファーのお父様もなかなかです。
茶会でDMCに関する情報を得たレイコは、ようやく腑に落ちた。
リヒトが、あれほどまでにAlluringへ近づくなと言った理由。
副社長の悪逆ぶりを知っていたからこそ、だったのだ。
「……それは、心配もするわよね」
小さく、ため息をつく。
エディが静かに問いかける。
「パーティーのドレスは、いかがなさいますか」
レイコは少し考え、ゆっくりと顔を上げた。
「黒にするわ」
一拍。
「ラメの入った、キラキラしたもの。オフショルダーで、スリットの入ったものにしてちょうだい」
エディはわずかに眉を寄せる。
また、リヒトが眉をひそめそうな装いだ。
その表情を見て、レイコはくすりと笑った。
「考えがあるの」
小悪魔のような笑みだった。
その意図を察し、フォックスが楽しげに言う。
「なるほど。そんな格好をしていたら、副社長は隙があると思い込みますね」
「えぇ」
レイコは頷く。
「酔ったふりでもしていれば、必ず動くわ」
もちろん、リヒトがいる以上、実際に隙など生まれるはずもない。
だが——
相手がそう思い込むことに意味がある。
「確かに。お茶会でのお姉様は、まるで女優でしたからね」
フォックスが笑う。
その瞬間、エディが低く切り捨てた。
「笑い事ではない」
空気がわずかに引き締まる。
「株価が下落している以上、DMCの社長——ヴェガルドが黙っているはずがない。あの男は、クリストファー以上に合理主義だ。悪事が表に出る前に、必ず副社長を引っ込める」
淡々とした分析。
「だからこそ、こちらが表立って動くべきではありません」
レイコは静かに頷いた。
「えぇ。私は何もしないわ」
そして、微笑む。
「ただ、思い知らせてやるだけ」
その声音は、あくまで穏やかだった。
⸻
その夜。
レイコたちは、護衛の武官たちと共にディナーを楽しんでいた。
笑い声が交わされ、グラスが鳴る。
穏やかな夜だった。
⸻
——遠く離れた場所では。
スコットランドの広大な屋敷。
DMC社長ヴェガルドが、険しい表情で立っていた。
「原因は何だ」
低く問う。
秘書が一歩進み出る。
「恐れながら、副社長の振る舞いが……目立つようになった可能性がございます」
慎重な言葉。
「現在、株価は十五ドル目前。これを下回れば、Alluringの五周年で大きな失態となりましょう。早急に手を打たれませんと——」
言い終える前に、ヴェガルドの拳がわずかに震えた。
「クリストファーを呼び戻せ」
抑えた声。
「やつはどこにいる」
「買収交渉のため、アメリカに」
「……間に合わんか」
短く吐き捨てる。
「ラフィアンでは手に余る」
即座に判断する。
「では——Preceptのエヴェリーナに遣いを出せ」
秘書が顔を上げる。
「少し前まで、あいつが入れ込んでいた女だ。揺さぶれるだろう」
「承知いたしました」
秘書は深く頭を下げ、静かに部屋を後にする。
残されたヴェガルドは、微動だにしない。
その顔に、父としての色はなかった。
謎の人物エヴェリーナ。
クリストファーとの関係は…
今後にご期待ください




