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それからのクリスタニア〜静かな海に灯はともる  作者: おーがすてぃーぬ


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18/57

あの日のあとでー白薔薇の中の約束

失ったあとでも、


時間は、止まってくれません。

時は少し遡る。


レイコは真っ白な天井を見上げていた。


意識が浮かび上がるにつれて、無機質な光が目に痛い。


やがて視界が揺れ、見慣れた寝室の天井へと変わっていく。


戻ってきたのだと理解するまで、少し時間がかかった。


そこにあったはずの気配が、

最初から存在しなかったかのように消えている。


レイコは、しばらく動けなかった。


これを知ったら、リヒトは悲しむだろう。

そう思う。


だが、自分の中にある感情が、それと同じものなのかは分からない。


ただ、空白だけが残っている。


「……私が」


ようやく声が出る。


「まだ、リヒトと過ごしていたいなんて思ったから……」


言葉が続かない。


「帰ってしまったのかしら」


視線が揺れる。


「やっと来れたはずなのに……ママが、パパを恋しがったせいね」


その瞬間、涙が溢れ止まらなくなった。


エディとフォックスは、声をかけることができない。


ただ、その場にいることしか出来なかった。



数日が過ぎた頃

宝石商のマダムから連絡が入った。


指輪が仕上がったのだという。


レイコはエディと共にサロンを訪れた。


「レイコ様、先日BMMの株主の皆様とお会いしましたの」


マダムが穏やかに微笑む。


「ご結婚のことをお話ししましたら、皆様とてもお喜びで。ぜひお祝いを、と」


レイコは何事もないように微笑む。


「嬉しいですわ。夫はまだ戻りませんし、私も久しぶりにお会いしたいわ。レジェンディア以来ですもの」


「では日時は改めてご連絡いたしますね。そうそう、今日は、お見せしたいものがありますの」


マダムは奥から、一枚の絵を運んできた。


白薔薇の花園。


その中に佇む、小さな天使。


それを見た瞬間、レイコの手が止まる。

次の瞬間、口元を押さえた。


涙が、溢れる。


マダムは静かに頷いた。


「クリスタニアは、白薔薇と呼ばれているのでしょう?」


優しい声だった。


「きっと、いつでも守られているのですわ。」


レイコは何も言えなかった。


「ニューヨークで見つけた時、レイコ様を思い出しましたの。結婚のお祝いに、ぜひ」


レイコはゆっくりと頷く。


「……ありがとうございます」


その声は、かすかに震えていた。



サロンを出たあとも、


レイコはずっとその絵を見ていた。


やがてそれは、寝室に飾られる。


夜。


レイコは静かにその前に立つ。


「ねぇ」


小さく呟く。


「パパとクリスタニアを、守っていてね」


一拍。


「私たちは、いつも一緒よ」


返事はない。


それでも、レイコは少しだけ目を閉じた。



「……マダムのお茶会はいかがなさいますか」


エディの声は、いつも通りだった。


「もちろん行くわ。準備をしておきましょう」


その声は、もう揺れていない。


エディはわずかに安堵する。


だが同時に、消えない違和感も残る。


視線を外し、フォックスに小さく告げた。


「……クリストファーが国内にいるか、調べてこい」


フォックスは無言で頷き、その場を離れる。


部屋には再び静けさが戻る。


白薔薇の中の天使だけが、


変わらず、そこにいた。

それでも、


大切なものは、


形を変えて、そこに残ります。

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