07:新生セツナ
再び月曜日の朝――転生10日目。
この週末は、セツナの人生で初めてと言っていいほどのんびりと過ごした。お盆はなかったし、お正月は親戚の家へ行ったりしている間に終わってしまっていたから。週末は家から一歩も出ずに過ごした。マンガを読んだり、録画してあった映画を観たりした。映画を観ながらポテチを食べる、セツナの憧れがまたひとつ叶った。
父親がケーキを買ってきてくれた。今まではセツナに気を使って、家でケーキを食べる習慣はないに等しかったんだ。普段なかなか顔を合わせる機会のない父親だが、家族のことをなんだかんだよく見ているのだなと温かい気持ちになった。美味しかったよ、ケーキ。いろんな種類があって一番先に好きなものを選んでいいと言われた時は、迷いすぎてクリームが溶けだすのではと思うほど時間がかかった。妹がチョコレートを好きなのことは知っていたから、セツナはチーズケーキを選んだ。父親が買ってきたケーキの箱の中にティラミスは入っていなかった。
今朝の話に戻る。
校門を抜けて、校舎に入るとヒソヒソと遠巻きに声が聞こえていた。「えっ誰?」「誰?」
「えっ?ちょっ!セツナ?!」
「おはよう」
なんだよ、2年続けて同じクラスじゃないか。親友だと思っていた友達が、やけによそよそしくセツナの顔を見ている。少しだけ傷ついた。
「めっちゃイメチェンじゃん!カッコいいよ!似合ってる」
「ありがとう。私も気に入ってるんだ」
金曜日は家族にも驚かれた。セツナは襟足をさっぱりと刈り上げてツーブロにしてきた。前髪も十年以上ぶりに作った。視線の上をちらちらと髪が揺れるのが嬉しかった。私自身のことを言えば十年なんてもんじゃない。数十年ぶりの前髪誕生さ。ひっつめたポニーテールの頃にはあまりわからなかったけれど、セツナはくせっ毛だ。それがいい感じに新しい髪型に合っていた。
「惚れたかも。付き合って下さい」
「ごめんなさい」
茶番をしながら教室に着いた。廊下でも教室でも何人もの子に振り返られた。この学校の大半の子が髪を伸ばしている。うんと長い子もたまにいるけれど、大半はセミロングだ。人気アイドルたちの髪型を真似しているんだと思う。そんな時代だ。短い髪は1割もいないだろう。だから物珍しいのだと思う。
教室の中は皆どこか浮ついた様子に見えた。無理もない、明日から修学旅行だ。この日は1日中その話で持ち切りだった。先生すらそんな感じだ。高校生活のメインイベントだからね。セツナにとっては今月はメインイベントのバーゲンセールみたいなものだ。
この日は寄り道をせずに帰った。クラブチームの子たちは変わらずフープを肩にかけて練習へ向かっていた。修学旅行には来ると言っていた。大会と重ならなくてよかったよ。もしも重なっていたらセツナも修学旅行には行けなかっただろうね。彼女たちのことを否定はしないよ。ひとつのことを追いかけるのも人生の選択のひとつだ。けれど十代の日々はたいていの人間にとっては一度きりだ。後になってから取り戻そうと思ってもできることではない。私はセツナとして後悔なく生きたい。
家に帰り、荷物の最終点検を済ませた。母親が白い細身のデニムを1本と、黒とこげ茶のギンガムチェックのロングスカートを旅行用にとプレゼントしてくれた。スカートは丸めてもシワになりにくいものだと言っていた。セツナの体型を考えて選んでくれたことがわかるそのスカートも、大切にスーツケースの中に入れた。
その日の晩ごはんは、肉じゃがに焼き魚。豆腐の味噌汁。どれも美味しかった。味噌汁を作るのと、漬物を切るのだけ手伝わせてもらった。晩ごはんの手伝いをすることすら今のセツナには楽しかった。
翌日は十時登校だ。父親の出勤と妹の登校を見送ってから、のんびり母と朝食を食べた。白いご飯に納豆。それから昨日の残りの肉じゃがを少し。
「それじゃ、行ってくるね」
「忘れ物ない?パスポート持った?」
「うん」
「セツナ――」ドアを開けたところで母親から声がかけられた。キャリーケースでドアを挟んで振り返る。
「楽しんでおいで、セツナ。気を付けてね」
「うん!行ってきます」




