06:新しい私
放課後になって、約束通り家族との待ち合わせ場所に急いだ。母はパートの帰り、妹は一度帰宅して着替えてきたようだ。
「まずはお洋服見に行こうか」
可愛いお洒落な服がたくさん並んでいる専門店のフロアを3人で歩く。
「これ、お姉ちゃんに似合いそう!」
妹が指差したのは、白の大層可憐なワンピースだった。趣味に合わない、却下だ。
その後も妹が「これがいい!」と勧めるものはどれも似たような見た目をしていた。なるほど妹からセツナはこのようなイメージで見られているのだな。
それではセツナは何が好みなのかと聞かれると、Tシャツやシンプルなパンツにばかり目がいった。制服以外のスカートを履いたことがないからかもしれない。セツナ、私が選ぼう。
ふんわりとした襟のついたシャツを1枚手にとってみた。大きく女性の横顔のシルエットがプリントされていて、その上に金色のロゴが入っている白いシャツだ。可愛い。
それを見ていた店員がすかさず近寄ってきた。シャツに合うというボトムスをいくつか並べられる。ミニスカートが多かった。試しにと試着してみたものの、あまり似合っているとは思えなかった。店員は大袈裟に褒めちぎっていたけれど。
スカートを売り場に戻して、パンツを見繕ってみた。紺の幅広パンツが気になって試着してみた。背が高いこともあって、少し短めの着丈なところが気に入った。これにしよう。おなごが気兼ねなくパンツを履ける時代だ。ならば存分に堪能するのも悪くない。
「いいんじゃない?ママもスカートよりこっちの方が好き」
母親も納得してくれた。セツナの身体は細すぎるのさ。マットの上では標準的に見えていたこの身体は、レオタードを脱いでしまえばただの貧相でしかなかった。その後母親の選んだチェックのジャケットと、シャツをもう1枚選んで服選びは終了した。妹もスカートを1枚買ってもらっていた。デニムのミニスカートが妹に似合っていた。
「パパは遅くなるって言っていたし、ごはん食べて帰ろうか」
「やったー!」と妹が喜んでいる。妹のリクエストでパスタを食べに行くことになった。世間ではイタ飯が大流行りしているからね。
「その前にひとつ買いたいものがあるんだ。ちょっと寄ってもいいかな」
母親と妹の快諾を得て、雑貨店へ向かった。新しい弁当箱を買おうと思った。毎日使っている弁当箱は幼稚園児向けかと思うほどに小さいんだ。
「お姉ちゃんの好きなやつー!」
と、妹が見つけ出したのは、セツナの枕元に並んでいるウサギのぬいぐるみが描かれた弁当箱だった。さっきの服選びはことごとく却下したからね、ここは妹が選んだものを買うことにした。あのぬいぐるみは特別セツナが気に入っていたわけでもないのだが。あれは2つとも中学生だった頃、クラブチームの子たちから何かのお祝いでもらったものだった。それでも枕元に並べて置くくらい大切にはしていたのだからね。明日からはこの弁当箱を使おう。
レストラン街へ移動した。イタリアの国旗とブドウが描かれたレストランに入る。イタリアンを名乗りながらも、セツナが注文したパスタには細く刻んだ海苔がかかっていた。これが日本だ。旨ければよし!食後にはティラミスも食べた。私が知っているティラミスとはいささか別物のように思うが、それも日本だ。
ひと駅電車に乗って、二子新地の駅からセツナたちの暮らすマンションへ帰った。シャワーを浴びて宿題を済ませて、その夜は早く寝た。新しい服が嬉しかった。考えてみたら店頭に並んでいる服を買うというのも久しぶりのことだったからな。これはこれで楽しいものだよ。
金曜日の放課後にはようやく念願の美容院に寄った。セツナはほとんど美容院に行った経験がなかった。いつもポニーテールをしていて、伸びた部分は練習の合間にコーチから鋏で切り落とされていた。つくづく酷い扱いをされてきたな、セツナ。
鏡の前に座り、若い美容師から話しかけられる。
「今日はどんな感じにしましょうか?」
数冊のカタログを用意された。髪型ばかりを大量に載せた本だ。こんなものがあったんだな。これは初めて見たよ。いいね、とても見やすくまとめられている。セツナはパラパラとカタログをめくった。
「こんな感じでお願いします」
「……えっ?いいの?」
セツナの指が示した写真を見て、美容師が一瞬タメ口になった。タメ口でも構わないよ。セツナの方が年下だしね。
「はい、お願いします」




