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04:新しい放課後

 放課後、クラブチームの子がフープを肩に下げてセツナの席まで来た。反対の肩にはスクールバックよりも大きな鞄が下げられている。中にはボールやクラブが入っているんだ。セツナは今日新体操の手具は一切持ってきていない。廊下の外には他のクラスの子が1人と1年生の子が2人、私たちが出てくるのを待っていた。その子たちも同じチームの子だ。毎日5人で練習に向かっていたからね。


「あ、今日私練習出ないからさ、先行ってね」


 すごく驚いた顔はされたものの、追及はされなかった。「コーチに何か言っとく?」と聞かれたので、それは断っておいた。後で直接顔を出そうと思う。昨日「来い」と言われているからね。長年籍を置いていたチームだ。辞める時は円満に辞めたい。


「何?セツナ今日練習行かないの?」


 別の友達から声がかけられた。新体操とは縁のない普通に仲のいい友達だ。


「うん。ミチルたちはどうするの?」


「うちらはナックでも行こうかって言ってたとこ」


 ナック!私も行きたい!それは日本中、いや世界各国にある超有名ハンバーガーショップだ。


「行っていい?」


「マジで?行こ行こ!ねえー!セツナも来るって!」


 放課後に友達と寄り道するくらいで、一大イベント扱いされるような子だったんだね。セツナ、今から青春を取り戻してやるからな。そうしてセツナは人生数度目となるナックへ向かった。


 店頭で悩む。ツヤツヤに光り輝くビックナックの画像が私を容赦なく誘惑している。けれど、セツナは今朝と昼休みのことを思い出していた。今の身体にビックナックは強敵すぎる。討ち死に確定だ。泣く泣く一番シンプルなハンバーガーのセットを注文した。飲み物はストレートのアイスティーにした。


 5人でテーブルを囲んで話し始める。それは昼休みの光景とさほど変わらなかった。私はハンバーガーを一口ずつ、じっくりと味わった。旨い。過去にナックに来た時のセツナは、いつも飲み物しか頼んでいなかった。もうそれは洗脳に近かったね。


 友達らが止まることなく話し続ける中で、私はセツナの17年を振り返っていた。

小学校の修学旅行――大会と重なり欠席。前年の林間学校も欠席させられた。

中学校の修学旅行――念願の冬の北海道へ行けたというのに、スキーを禁止されてロッジで感想文を書かされた。


 夏の海も屋外プールも禁止だった。今年はもう間に合わないけど、来年は絶対日焼けしてやる。修学旅行だって目いっぱい楽しむから!


 修学旅行?そういやもうすぐじゃなかったっけ。


「ねえセツナ、なんで今日休み?」


 話しかけられたところで、私の思考は一旦現実に戻った。


「引退したんだ」


 束の間の静寂の後、悲鳴のような叫び声が上がった。止めようよ、周りの目が痛い。


「なんで?」

「優勝したんだよね?」

「新女王の時代幕開けって書いてあったし」

「オリンピック目指すんじゃなかったの?」


 セツナは残り少なくなったハンバーガーを食べ終えて、しっかりと口元を拭いた。


「もう辞めたの。満足したから」


 しばらくの間友達は好き好きに騒ぎ続けていた。「もったいない」とか「行けるよオリンピック」とか……。所詮は他人事だもんね。「私の友達、オリンピック選手なんです」って言いたいだけなのかなと、少し寂しくなった。この子たちは別に悪くない。でも今までセツナがこのハンバーガーひとつすら食べられずに我慢してきたことを、少しは考えて――いや、いいや。他人の理解などどうでもいい。セツナは引退した、それだけだ。


 けれど、友達の次の言葉は痛かった。そうだった、そのことを忘れていた。


「それじゃーさ、進学どうするの?」


 新体操だけをひたむきに続けてきたセツナだ。学業の方が……なことはわかるだろう?今の高校も新体操をしていなければ、とても入れるレベルではない。セツナは大学進学もスポーツ推薦の予定だった。

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