14:これからのこと
シャワーを浴びてリビングに戻った。ソファーに腰を下ろすと、目の前のローテーブルにスポーツ雑誌が置いてあることに気がついた。紫のレオタードはリボンの演技で着用したものだ。そう、表紙にはセツナが載っていた。今月は他にめぼしいスポーツがなかったんだね。[新女王は高校2年生小田 セツナ]と書いてあった。まだ引退したことが伝わる前だったみたいで、居心地が悪かった。
今年はさ、誰が優勝しても新女王だったんだ。去年まで第一線を走り続けていたレジェンドが引退していたからだ。だからその部分を強調されることはちょっと嫌な気持ちになる。
ペラペラとめくっていたところに父親が帰ってきた。
「おかえりセツナ、楽しかったか?」
「うん、パパもおかえりなさい」
父親の食事が終わるまで待っていよう。食卓では母が父の食事を並べている。缶ビールが1本置いてあった。セツナが普段リビングで過ごす時間は、多いとは言えなかった。すぐに自分の部屋へ行くからだ。母親が何度かちらとセツナを見ていることには気がついていた。何を考えているのかまではわからないとは思うけれど。
夕食を食べ終えた父と、後片付けを済ませた母がソファーに移動してきた。早速切り出そう。
「あのね、パパ、ママ。ごめんなさい。私、新体操辞めたから特待生じゃなくなったよね」
セツナはスポーツ推薦で今の学校に通っている。特待生で、全額ではないけれど学費の一部免除もある。転生直後は転生ハイで、そのことに気が回っていなかった。学校の新体操部にも退部届をまだ出していない。明後日登校したら、正式に退部しようと思っている。後1年続けて正規で引退していれば卒業まで特待生でいられたけれど……。自分の判断を後悔はしていなかったものの、両親に迷惑をかけることを申し訳なく思った。父親と母親は顔を見合わせている。父が先に話し始めた。
「それでパパを待っていたのか?それはセツナが気にすることではないよ。パパはこうして活躍するセツナを見るのも嬉しかったが、もっといろんなことを楽しませてやりたいとずっと思っていたからね」
母親も似たような言葉をかけてくれた。
「ママもそうよ。セツナが小さい頃はいつも送り迎えしていたからね。こんなに練習ばかりでいいの?っていつも思っていたの。今からでも好きなことたくさん見つけなさいね」
嬉しかった。セツナは両親に恵まれているね。ありがとう。
「ありがとうパパ、ママ。私バイト探すね。お小遣いくらいは自分で貯めるよ。勉強もする。私ね、卒業したら就職しようと思うんだ」
両親は、この夜はうんうんと頷くだけだった。セツナの成績はお察しだもんね。大学進学が絶望的だとわかっているのかもしれない。それでももうちょっとマシな成績が取れるくらいは頑張ってみるよ。時間もできたしね。
2日後、セツナは正式に退部届を出した。顧問の先生は大慌てだった。思いとどまるようにと何度も言われたけれど、もう遅いんだ。修学旅行の間セツナは一度も柔軟をしていない。1週間サボった身体を元に戻すには1ヵ月はかかる。戻すつもりもなかった。
「勝手言ってすみません。今までありがとうございました」
帰りに求人情報誌のanを買って帰った。




