12:修学旅行~団体行動
集合場所に到着。ホストファミリーとハグしている子たちの姿も見える。ゴスン、と音を立ててブラウンさんの車が停止した。故障の音ではないよ、何度も聞いたからもう覚えた。いち早く車から降りたブラウンさんが、キャリーバッグを下ろしてくれた。
「よい旅を。またいつでも遊びにおいで。モントリオールは君たちを歓迎するよ」
最後にフランス語で挨拶をしようか、昨晩から少し迷っていた。でも後味を悪くする必要はないからね。立つ鳥跡を濁さず。ロミーの愚痴は聞かなかったことにするよ。
「皆さんもお元気で。日本に来る機会があれば声をかけてください」
振り返らずにクラスメートと合流した。荷物を預けてバスに乗り込む。
セツナたちのグループはモントリオール美術館の見学からスタートだ。有名なルノアール、レンブラントにはじまり、中には宗教画も見られる。この街からカトリックの香りは薄れたようだが、絵画はその時代時代を切り取ったように歴史の匂いが強く残り続けている気がした。時間内に全て回りきることができないほどの展示数だった。名残惜しいが移動だ。
その後はノートルダム大聖堂を見学することができた。再び足を踏み入れることができる日が来るとは思ってもいなかった。格別な想い出が残っている場所ではないものの、何度見ても荘厳で厳かな気持ちの引き締まる聖堂だ。特に薔薇窓が美しい。いつまでも見上げていたかった。
3クラス、120人超のグループが、さらに6つに分けられる。教師が1人ずつ割り当てられていて、ランチに向かった。予め決められているレストランだ。メニューも既に決まっているようで、飲み物の希望だけを聞かれた。セツナの隣には今日も変わらずミチルの姿があった。
料理が届くまでの間、同じテーブルになった5人の話題は、といえばお互いのホストファミリーの話だ。聞けば聞くほどセツナたちのハズレレベルがいかに高かったのかが伺われた。ミチル風に言えば「マジで最高じゃん」今後30年は擦れるネタをもらった気分だ。
美しい焼き色をしたガレットが運ばれてきた。皆は不思議そうにそれを眺めている。しおりにはレストランの名前しか書いてなかったからね。どんな料理の店なのかはセツナも知らなかった。でもガレットは当たりの気がする。少なくともミチルとセツナにとっては、プーティンより遥かに当たりだ。
「クレープだよ。そば粉のやつ」
クレープはすっかり馴染みのある食べ物だから、それで伝わると思った。伝わりはしたのだが、ここでミチルが騒ぎ始めてしまった。いつものこととはいえ、今回ばかりは少しまずい。
「聞いた?セツナがさ、やたらフラ語上達してんの!2人でメトロに乗った時も――」
急いでミチルの口を塞いだ。物理的に。ミチルの口を抑えつつ教師の方をそっと盗み見た。視線はこちらには向いていなかった。聞こえなかった、よね?
「声!デカいから!」
親友の顔も遅れて慌て始めた。しおりにはさ、明確に禁止とは書いてはいなかったものの、生徒だけでの行動はかなり黒寄りのグレーだったんだ。バレた時には「ちゃんと読んでませんでした」を貫き通すつもりではいたものの、自ら暴露するのはどうかと思う。
――幸いお咎めはなかった。
ランチを終えて、散策をしながらバスへ向かうことになった。途中におあつらえ向きの写真スポットがあった。誰かの銅像だ。
「ねー!理子、セツナ、いつものやつやってよ」「あー!ウチも見たい!」
毎回行事の度に2人でさせられてきたポーズがある。理子ちゃんは同じクラブチームで新体操を続けてきた子だ。もちろんまだ現役。理子ちゃんは気を使うようにセツナを見ている。失敗したな、スカート履いて来ればよかった。今日のセツナは白いパンツを履いている。理子ちゃんはグレーのチェックのパンツを履いていた。お互い服選びミスったね。
こういうのはさ、ごねるだけ損なんだ。結局やらされるハメになるならさっさと済ませるに限る。理子ちゃんも同じ考えらしかった。
「セツナがいいなら……」
「やろっか」
「1回しかやらないからね。撮るならちゃんと撮りなよ」
理子ちゃんとセツナは銅像に背を向けて並んだ。トントン、と何度か右足を地面に打ち付けてみる。問題なし。行くよ、理子ちゃん―― I字バランス、そしてお互いの外側の腕でハートの形を作った。人工的スマイルも添えて。ミチルたちがパシャパシャ写真を撮っている。何人かの通行人がギョッと振り返っていた。
「おしまい、もう絶対やらないから。行こ、理子ちゃん」
後ろでキャーキャー喜んでいる声がついてくる。後でちゃんとセツナの分も現像してよね。
午後は車中からの見学も多かったものの、いくつかの教会を見学しつつ、夕方にはホテルに着いた。明日からはまた移動だ。今夜もミチルと同室だった。言い忘れていたけれど、ミチルが日本から持ってきたおやつは、まだほとんどが未開封だ。クロエとシンディにあげたらよかったね。気がつくのがちょっと遅かったみたい。そしてこの夜からぼんやりとセツナの今後のことを考え始めていた。




