11:修学旅行~市内観光
「ブラウンさん、ロミーさん。今日はオールドモントリオールを観光してこようと思っているんです。近くのバス停を教えてもらえますか?」
朝食の席ではじめに今日の予定を話した。家事の段取りを勝手に決められていてはたまらないからね。
「それなら近くの駅まで乗っていくかい?」
と、期待以上の返事を頂いた。ブラウンさんはいたって普通だ。別段私たち2人を臨時労働力として考えてはいないらしい。ハニーの顔は見ないことにした。家事くらい自分でやりなよ。
車の中で、明日も観光するつもりでいることを伝えておくことも忘れなかった。ブラウンさんは、18時にこの駅へ戻っておいで、と言った。仕事帰りに拾ってもらえるみたいだ。助かったよ。住所は聞いているものの、それだけを頼りに戻ってくるのは少々自信がなかったからね。
メトロに乗って目的地へ向かう。
「ミチル、切符これ」
券売機で目的地までの切符を確認して、それを伝える。ごく普通の流れのつもりだった。また失念していたよ。セツナのフランス語成績は240番台だったね。
「ホント?これで合ってる?」
「うん、オレンジに乗れってガイドブックに書いてあったから大丈夫」
親友の記憶の中にもその部分は残っていたらしく、納得してついてきた。なんだよ、ミチルの方が英語もフランス語もセツナよりずっと成績は上じゃないか。もっと自分を信じればいいのに。
メトロを降りて階段を上った先、地上に出てほどなく大聖堂が姿を現す。思わず吸い寄せられるほどその美しい佇まいに圧倒された。中もじっくり見学したいが、今日のところは外観だけで我慢だ。セツナとミチルは日本からたくさん持ってきた'写ルンです'で写真を撮りまくった。
なんとなく向かった博物館のいくつかは休館日だった。オフシーズンだから仕方ない。親友は路を歩くだけでも充分満足しているように見えた。日本人観光客とたまにすれ違ったので、お互いに写真を撮り合ったりもした。現像するのが楽しみだ。
「ランチ行こうか」
今朝は控えめにしておいた。それでなくてもセツナは「小鳥みたいな子ね」と言われていたのだけれど。ちなみに今朝のハニーもドーナッツを食べていた。
「行こ!」
今から行くのも蛍光ペンでしっかりマーキングされていた店だ。スモークミートが自慢のカフェらしい。ミチルは案内された席で渡されたメニュー表を見て困り顔になった。写真、ないもんね。
「ねえ、スモークミートはシェアにしない?サラダが美味しそう」
モントリオールに来てからの2日で、セツナは野菜に飢えていた。まさか野菜が恋しくなる日が来るとは思っていなかったよ。サラダのページを上から読み上げていく。スモークサーモン、シュリンプ、チキン……。ミチルはチキンサラダ、セツナはエビのサラダを注文することにした。それからスモークミートをひとつと、飲み物はせっかくのカナダだからメープルラテを。
ようやくモントリオールに来た実感がした。親友の顔もご満悦だ。
「カナダって食事不味いのかと思ってた。めっちゃ美味しいじゃん」
ミチルの言いたいことはわかるよ。ハニーは料理が好きではないんだろうね。あの巨大な冷凍庫には大量のピザがストックされているに違いない。
ランチの後は植物園に行った。園内はとても広く、一角には日本庭園もあった。完成して間もないものらしい。
「すご!京都じゃん!」
京都を模したものなのかはわからないが、言いたいことは伝わった。日本らしさ満載の庭だ。日本庭園の他に、中国庭園も大変見ごたえがあり、朱塗りの東屋が中国らしさを醸し出していた。ここでもたくさん写真を撮った。
とても全部を見て回ることは出来ず、適当なところで切り上げて、残りの時間は街をぷらつくことにした。日本とは違う空気が漂う街を歩くだけで、セツナも満足していた。途中カフェでコーヒーをテイクアウトした。その時2人で相談してハニーたちへのお土産も買った。あのダイナマイトボディーのハニーだ。ヘルシーなものは喜んでもらえないかもしれないと、ブルーベリーマフィンにした。これなら明日の朝食に出てきても安心だからね。少し多めに8個袋に入れてもらって、それをぶら下げてメトロへ向かった。そろそろいい時間だ。
朝降ろしてもらった駅へ戻り、ブラウンさんの車を待った。
「今日はセツナのおかげで楽しかったね。すごいじゃん。メニューとか看板全部読めてたよね」
「うん、楽しかったね。明日も楽しも!」
次の日も、朝から目いっぱい観光を楽しんだ。ランチにはベーグルを食べた。どうしても食べたかったんだ。一口かじった途端、古き思い出がよみがえるようだった。当時と全く変わらない味、のように思う。親友も最初は物珍しそうにしていたけれど、「旨っ!」と2つ平らげていた。セツナも2つ食べた。以前はなかったはずのクランベリーベーグルがとても美味しかった。
さて、明朝にはこの家ともお別れだ。今夜もピザか?と2人で構えていたのだが、ブラウン家で過ごす最後の夜は外食だった。「出来立てが旨いんだ」と連れて行かれたのはプーティンのチェーン店だった。
ハニーはニッコリと笑みを浮かべながらマシンガンの如く愚痴を吐いていた。もちろんフランス語だ。
「この子たち、ちっとも使えなかったじゃないの。手すりのペンキ塗りは一体誰がやるのよ」
「今後は中学生だけにしましょうよ。自由に出歩かれたんじゃたまらないわ」
ホストファミリーも様々だ。様々な理由・思惑があって受け入れをしている。ブラウン家、いやハニーのような考えが異常なわけではないとは思う。でも私たちの言い分からしてもハズレだったね、ミチル。セツナ自身は自由に観光できたことも悪くはなかったけれど。
翌朝、荷物をまとめてブラウンさんの車で集合場所へ向かう。
「ロミーさん、お世話になりました。クロエ、シンディ元気でね」




