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10:修学旅行~家事手伝い

 夕食をいただいて、部屋に戻った。戻るなりセツナもミチルもベッドへ倒れ込んだ。もう動きたくなかったけれど、なんとか先に立ち直ったのはセツナだった。


「先にシャワー借りてくるね」


「うん……寝てたら起こして。絶対起こして」


 返事をする前に親友は寝落ちした。


 ハニーらしさ満載のディナーだった。直径50cm近い冷凍ピザがテーブルの上に3枚鎮座していた。各自の席にはハインツのコーンポタージュが注がれた巨大なカップと白い皿が1枚。隅にドンと置いてあるのはワインとペプシだ。昨日の晩ごはんのありがたみがひしひしと伝わってきたよ。美味しかったな、肉じゃが。


 セツナは1切れでギブアップした。ミチルが身体を張って2切れ目に手を伸ばした姿はなんとも頼もしく、かっこよく見えた。ハニーが何枚食べていたかって?それは言えないね。テーブルの上は綺麗に片付いていたよ。妖精たちもハニーへの道まっしぐらだ。


 手早く髪と身体を流して部屋に戻った。交代でミチルがシャワーを借りに行く。ミチルが髪を乾かしている途中でセツナは寝たようだ。目が覚めた時には外は明るくなっていた。


「おはよう」


「おはよ……セツナ朝から元気だね」


 まだ眠そうに目をこすっているミチルの隣で着替えを済ませた。今日は母親が買ってきてくれたロングスカートを履いてみた。私服でスカートを履くのは初めてだけれど、これには違和感を感じない。すごいね、母親って。


「おはようございます」


 ブラウンさんは食卓で新聞を読んでいた。2人の娘たちはまだ寝ているのか姿は見えない。


「おはよう、昨夜はよく眠れたかな?」


「はい。素敵なお部屋をご用意下さってありがとうございます」


 キッチンにいるハニーにも声をかけた。


「ロミーさん、おはようございます。お手伝いできることはありませんか?」


 ハニーの手伝いでりんごの皮をむいた。どうかこれを油で揚げたりしませんように。



「いただきます」


 朝食にはロールパンと、カリカリベーコンエッグ、それから牛乳と生のリンゴが並んだ。ハニーが食べているドーナッツは視界に入らないようにしておいた。最強の胃袋だね。

2つめのドーナッツを手に取ったハニーが、ブラウンさんにまくし立てる。


「信じられないわ。小さいほうの子よ。昨日何分シャワーを使っていたのかわかる?32分よ!今夜はお湯を止めてやろうかしら。細い方の子は9分だったわ。この子は真っ当よ」


「そう目くじらを立てるなよハニー。日本の子がシャワーが長いのはいつものことじゃないか」


 わざとセツナたちがいる場で言っているのだろうか。今朝の苦情会話もフランス語だ。恐らくは私たちが理解できない前提で話している。ホストファミリーに求められる条件が英語会話だからね。そして生徒側もホストファミリーとの場では日本語を極力使わないようにと指導されている。


(あとでミチルには話しておこう)

シャワー中に突然水が出てきたら可哀想だからね。


 ブラウンさんが仕事へ向かい、家の中にはハニーと私たちが残った。この家に1台と思われる車はブラウンさんが運転していった。ハニーにどこかへ連れていってもらえるとの期待は薄い。


 午前中は妖精たちと庭で遊んだ。昼ごはんには昨夜と同じサイズのピザが1枚出てきて5人で食べた。

 午後、気がつけばセツナは窓を拭いていて、ミチルは床掃除をしていた。これってアリなの?


「ねえ、セツナ。うちらハズレぽくない?」


「うん、私もそう思い始めてたところ」


 ホストファミリーには家庭差があります、とは言われていたよ。これは3日後が楽しみになってきた。みんなどんな家に泊っているんだろう。セツナたちは充分ネタ担当になれそうだ。


「そうだ。シャワーね、もうちょっと早く切り上げた方がいいかも」


 ハニーが目くじらを立てていたことは伏せて、海外の一般論的な話ぽく話しておいた。


「明日は2人でどっか行く?」


 日本からはるばるカナダまで来て、シッターやって帰るのは納得がいかない。観光行きたい。


「えっ、行きたい。自由行動していいんだったっけ?」


「いいんじゃない?楽しもうよ」


 部屋に戻って、ミチルが持ってきていたガイドブックを開いた。2人で頭をくつけるようにしてページを覗き込んでいく。至る箇所に蛍光ペンで印がつけられていた。


「めっちゃ行きたいところあるじゃん」


「だって初海外じゃん」


 貴重な1日を無駄にした。明日からは目いっぱい見て回ろう。印のついている中で、ノートルダム大聖堂とモントリオール美術館は外そうか。これはグループ行動で見学の予定が決まっている。


「ねえ、ここはどう?大聖堂はパスとして」


 セツナはオールドモントリオールと書かれたページを指で指した。ここにもたくさんペンで印がつけられている。博物館がいくつもあるから、どれか1つくらいは開館してるだろう。私の中の懐かしい記憶がおぼろげに浮かんできた。そう、私にはねモントリオールで暮らした経験もあるのさ。ハニーたちが生まれる少し前の時代だよ。


「行きたい!行き方調べてみよう!」


 2人で計画を立てている最中に、ブラウンさんが帰宅した。その手にはバケツサイズのプーティンが2つ下げられていた。今夜のディナーのゴングが鳴り響く。

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