#87 【天界配信】下界の人間が神に下剋上ざまぁ!?
――ところ変わって、死者の国『霊界』では。
『――オラオラオラオラオラオラァッ!!』
『『――ぷギャぐがガギぐボゔぇゴぱぁァァっッッ!!』』
大型ビジョン広告のような画面に、地球の龍ノ顎ダンジョン内の様子が映し出されていた。音声もふくめてリアルタイムで再生されている。
画面の中では、破瀬鋼侍が神テラと神レグラをボコボコに殴り続けている。
それを4名の者たちが視聴、鑑賞していた。
「鋼侍ぃ、行っけーッ! いいぞいいぞぉ、もっとやっちまえーっッ!!」
「フム……。気合が入ったいいラッシュだな……!」
その内の2名は、鋼侍とさららの両親である破瀬祭離と守だ。
つい先ほどまで、「黒騎士」「白騎士」と称して前世の姿になっていた2人だが、今は地球で暮らしていたときの外見そのままだ。
2人はまるで、子供たちの運動会を観戦しているかのような雰囲気で、鋼侍やさららたちの活躍を楽しんでいた。
4名の内あとの2名はむしろ、そんな祭離と守の様子を感慨深そうに見守っていた。
その2名とは――――
「――あらあら……〝ネメシス〟もすっかり人の親ね。暴れん坊だったあの子が母親の顔をしてるなんて、感慨深いわ……」
「――うむ。〝クライトス〟もいい顔をしておる。息子との再会で心が晴れたようだな」
祭離と守がそれぞれ、かつて前世で仕えていた2柱の神――闇と混沌の神ニュクスと、光と秩序の神ヘリオスだ。
〝ネメシス〟と〝クライトス〟というのは、それぞれ祭離と守の前世の名を指す。
この2柱の神も元眷属の2人に合わせ、人間の姿でこの場に顕現していた。
4名が鑑賞している大型スクリーンは、神ヘリオスの力で生み出されたものだ。
この2神がこの場に降臨している理由は、次のニュクスのセリフで概ねわかるだろう。
「――あの子が転生先で不当に命を奪われたと知ったときは、やったヤツを八つ裂きにしてやろうと思ったけど……」
「あの時は、止めるのに苦労したぞ。危うく77の世界が消し飛ぶところであった」
超然とした態度で応えるヘリオスだが、内心はそれほど穏やかではなかった。当時は、それは大きな苦労があったものだ。
そこでニュクスはニヤリと笑う。――ヘリオスよりはニュクスの方が比較的、人間じみた感情をのぞかせる言動をしていた。
「ここまで我慢したかいがあったわ。――最高の『下剋上ざまぁ』になったわね」
その言葉を発したニュクスは、闇の神らしからぬ晴れやかな表情をしていた。
ヘリオスとニュクスは、それぞれかつての眷属の無念を晴らすため、陰ながら鋼侍たちの戦いをサポートしていた。
異世界の神リヴィエの協力を取りつけたこと、レグラの転移魔法が発動するタイミングで鋼侍を特殊なダンジョンに転移させたこと、守と祭離を一時的に前世の姿に戻したこと、……これらは全てこの2神の御業である。
そのとき、なじみのない言葉を聞いたヘリオスはわずかに首をかしげた。
「下剋上〝ざまぁ〟……? ――なんなのだ、それは?」
するとニュクスは、愉快そうに口の端を持ち上げる。
「……あら? 知らないの?」
ニュクスは、続けて言う。
「――悪いことしたヤツが、相応の報いを受けることよ。スッキリするでしょう?」
それを聞いたヘリオスは、思案げにあごをなでる。
「ふむ……いわゆる勧善懲悪のことか。――下界の民というのは、おかしな言い回しを考えるものだな」
話はそこで一段落した。
その後、何かに気づいたヘリオスがニュクスへ別の問いを発する。
「……ときにニュクスよ、そなたはいま何をしているのだ?」
その質問は、今この『霊界』での行動について訊ねたわけではない。
ニュクスの本体――ニュクス自身の『神域』にいる――が普段と全く異なる活動をしていることに、ヘリオスは気づいたのだ。
それを、たまたま2神が同時に降臨していたこの場で訊ねた、というわけだ。
「ああ……。言ってなかったわね」
ニュクスは肩をすくめながら答える。
その仕草にはどこか、イタズラが見つかった子供のような雰囲気があった。
「【天界】にいる他の神々にも、この光景を動画で配信してあげようと思ったのよ。……どうせみんな、下界のことは眷属に任せてゴロゴロしてばっかりいるんだから」
ここで【天界】というのは、便宜上の言葉である。
神々が一箇所に固まって居住しているような世界があるわけではない。一般に神は、それぞれ自らの本拠地である『神域』に引きこもっている。
ここでは、それらをまとめて【天界】と称している。
ニュクスの言葉を聞いたヘリオスは、軽く目を見開いた。
「……〝動画配信〟……? それも下界の概念か……?」
「――ええ、そうよ。……ほんっと、地球の人間って面白いことを考えるわね」
ヘリオスは腕を組んで「ふうむ」と息を吐く。
「我の目には、珍妙な取り組みに映る……。悪しき企てなどではないようだから良いが……」
それを聞いてニュクスは、げんなりとした表情を見せる。
「何よー、今さら悪だくみなんかしないってば。……相変わらず、頭がカタイんだから……」
「むう……」
〝頭がカタイ〟――その言葉に思い当たるフシが数多くあるヘリオスは、わずかに眉根を寄せた。
ニュクスはそんなヘリオスの肩を叩き、笑う。
「――楽しいことは、みんなで共有しなきゃでしょ?」
†††
《――ニュクス様に誘われて来たんだけど、今どういう状況?》
《……あ、ヘリオス様もおるやん。お二方は『神域』におるんか》
《ウッソ! ニュクス様とヘリオス様の人間形態ツーショット!? 激レアじゃない!》
ニュクスが、地球の動画配信技術をマネて創り上げた『配信魔法』。
その視聴者として、数多の神々が各々の世界から参加していた。
早速コメント機能を学習した神々が、思い思いのコメントを投稿していた。――ちなみに、念じるだけで投稿できるかんたん設計である。
「……おお、すごいわね。ヒマな神々がたくさん釣れたわ。視聴者がもう1万柱以上よ」
『霊界』から遠く離れた自身の『神域』にて、ニュクスは魔法の操作を行っていた。
『神域』は精神のみの世界ではあるが、ニュクスはいま『霊界』と同様に人間の姿を取っていた。
「――それだけ【天界】が平和だと取るべきか、神々が暇を持て余していることを嘆くべきか……悩ましいものだな」
それは、この場に知己であるヘリオス神を招いていたからである。
ヘリオスの本体は、自身の『神域』に留まったままであり、ニュクスの『神域』にいるのは分身だ。また、2神とも『霊界』の方にも分身を残したままである。
そう――上位の神々にとって、分身を活用したマルチタスクは当たり前のことなのだ。
「……前者だと取っておきましょう。――あ、ちなみに今のあなたの声も拾ってるわよ」
「なにっ!?」
期せずして、【天界】最初の配信者に名を連ねることになったヘリオスであった。
《――へー、こうやって他の神が送信したコメントも見れるんだ。面白いわねぇ、この魔法》
《……なあ、そもそもこれって何の会なんだ?》
視聴者の神々が十分に集まったところで、ニュクスはリスナーに向かって語りかける。
「――みんな、今日は私たちの配信を観に来てくれてありがとう」
《どういたしまして!》
《こちらこそ、お誘いありがとう☆》
《――で、こんなに神々を集めて、何をする気なのかな?》
「……まずは、これを見てもらうのが早いかしら」
ニュクスが初手として画面に映した映像は、鋼侍がテラとレグラをボコボコに殴っている瞬間だ。
《えっ! ウソっ!? これ、ヤラれてるのって2人とも神じゃん!》
《どこの下界だ……? ってか、ヤッてる方は下界の人間じゃねーかっ!》
《ちょっw 神酒噴いちゃったんだけどww》
《草不可避》
ツカミはバッチリだった。
ニュクスはその視聴者の反応に満足したようにうなずく。
「……わかってもらえたみたいね。――そう、これは下界の民による、神々への『下剋上ざまぁ配信』よ!」
《……下剋上「ざまぁ」!? すごそう……!(小並感)》
《やべぇな……。オラ、わくわくして来たぞ!》
《誰か、「ざまぁ」って言葉の意味を教えてくれ》
《アレだよ。神々に「ざまぁ」するんだろ? つまり俺らが「ざまぁ」されちゃうってことだ》
《だからその「ざまぁ」の意味を教えろと》
「あ、『ざまぁ』っていうのは――――」
と、ここでニュクスは、先ほどヘリオスにしたのと同様の解説を加えた。
その後、ニュクスはこれまでのレグラたち神の陣営と破瀬一家の因縁や、ニュクスとヘリオスによる介入をふくむ事の次第を、映像を交えて説明した。
《……ニュクス様とヘリオス様の眷属に手を出すとか、命知らずな神もいたもんだ》
《よくその時点で世界が滅びなかったものね》
《――このとき、その2柱の神の命運は決まったのであった――》
《誰がナレーションを入れろと》
妙にノリのいい神々によって、初の【天界配信】は予想外の盛り上がりを見せていた。
そして配信が現在に追いつき、再び鋼侍がレグラとテラにお灸をすえているシーンを映すと、その盛り上がりは最高潮を迎える。
《うわぁー、もう2柱ともフルボッコじゃんww》
《人間に土下座までして……もし命が助かっても、神の威厳は木っ端みじんね》
《あ……それ、つらいやつ……》
《これぞ「ざまぁ」! 草しか生えねぇなwww》
《……あの人間ヤバいねー。〝神殺し〟持ってるよ。下手に手出ししたら、俺らでも殺されかねないな》
《おー、こわ。――よし、決めた。あの世界には、絶対近づかない》
そんなとき、『霊界』の方でも動きがあった。
『――なあ、ニュクス様。1個〝いいこと〟思いついたんだけど』
と、『霊界』に留まっていたニュクスの分身に話しかけたのは、元眷属の祭離だ。
このタイミングで、ニュクスは配信画面を二画面に分割し、『霊界』の様子を拡大表示した。
なんだなんだと、神々がコメントでざわつく。
『――あら、何かしら?』
問い返された祭離は、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。
『レグラとテラの感度――ってか、痛覚を「3,000倍」にするってのはどうだ? けっこう、いいお仕置きになると思うんだよなぁ』
その瞬間、配信のコメント欄は騒然となった。
《え、えええぇぇぇ〜〜〜っっッッ!? 3,000倍いぃ〜〜っッ!?》
《――ヒェッ》
《……このお嬢ちゃん、何言ってるの……?》
《いま金玉ヒュンッ、ってなったわ》
《いったい、神を何だと……これはもう……――合掌》
そんな提案をした祭離を、ニュクスはうっとりと見つめ返す。
『素晴らしい……まさに悪魔的発想だわ』
『――だろ?』
敬愛する主神に褒められ、祭離はまんざらでもない様子だった。
配信のコメント欄には、神々の阿鼻叫喚の声が滝のように流れ続ける。
《やめたげて! もうやめたげてよぉ!》
《……俺、今度アイツらに会ったら優しくしてあげようと思うんだ》
《ヤツらがそれまで生きてたらいいな……》
ふと、『霊界』のニュクスが思い直したように言う。
『――でも、さすがに感覚を3,000倍にして〝神殺し〟のダメージを受けると、本当に死んでしまうかもしれないわね』
『えぇ〜っ』
祭離はあからさまに不満げな声を上げたが、視聴者の神々は安心した。
――さすがニュクス様、そこまで鬼じゃなかった、と……
すると、ニュクスはこう言う。
『――2,500倍ぐらいにしておきましょうか』
『……あんまし変わらなくねぇか?』
視聴者もそう思った。
『ギリギリを攻めてみたわ』
《ギリギリ……? 死ぬ方? 生きる方?》
《俺は死ぬ方に賭けよう》
《私も》
《ワイも》
《賭けが成立しねぇな》
――こうしてテラとレグラは、ニュクスの手にかかって痛覚を2,500倍にされた。
『『あぎゃグギャゴギャごヴォぁだッ、だずゲ%♠※@%&#♣……!!』』
『な、なんだコイツら!? 急にメチャクチャ苦しみだしたぞっ!』
『――お兄、気にせず続けて! まだあと8,000発残ってるよ!』
『わかった!』
《……うわぁ……もう目も当てられねぇ……》
《悪いことしたらこうなるってことだね。みんなも気をつけようね》
《回数増えてない? ……増えてるよね?》
《これが無間地獄か……》
《……もしアイツらが生きて帰れたら、俺が下界から献上された最高級の神酒をふるまってやるよ……》
《では、わしは特製の雲の寝床でもプレゼントしようかの》
《何それ気になる》
このようにして、地球で生まれた配信文化は世界の垣根を越え、神々を通じて他の数多の世界へと広がっていった。
「ざまぁ」という言葉と共に――――。
これにて「ざまぁ」回は完全に終わりです。
登場人物紹介をはさんで、後日談へと続きます。
「天界配信」を楽しんで頂けた方は、ぜひ★の評価をお願いします!




