#83 再会と継承
黒騎士と白騎士の正体について、みなさんの予想は当たっていましたか?
本話が、2人から鋼侍へのネタバラシ回となります。
それでは、本編をどうぞ。
星海にたゆたうようなダンジョンの深奥にて。
破瀬家の親子3人が、4年ぶりの再会を果たした直後のこと――。
「…………何やってんだよ。2人して、こんなところで…………。それに、黒騎士と白騎士って何なんだよ…………――つーか、強すぎだろ。あり得ねぇし、意味わかんねぇよ、ホント…………」
とめどない感情がただあふれるに任せるように、鋼侍は言葉を吐き出していた。もちろん、すべて偽らざる本心でもあった。
「フッ……」
「あははっ」
そんな息子を目の当たりにして、両親は声に出して笑った。
母、祭離がとぼけるように小首をかしげる。
「――言ってなかったっけ? 父ちゃんと母ちゃんは最強なんだぞーって」
それは生前、祭離が冗談めかしてよく言っていたセリフだった。
その言葉に対して、鋼侍は――
「――――いや、マジでこんなんだとか、ふつう思わないじゃん?」
これ以上ない、正論だった。
祭離は一瞬目を丸くした後、大笑いする。
「そりゃそうだッ! ――アーハッハッハッ……!」
豪快な笑い声を上げる祭離の横で、守もくつくつと静かに笑っていた。
そんな2人の様子を見て、鋼侍は本当に両親と再会できたのだと、改めて実感を強くしていた。
――実際のところ、鋼侍は薄々と2人の正体を怪しんではいた。
特に体感で丸3日間を共にした〝黒騎士〟としての祭離の言動には、鋼侍にとってあまりに生前の母を想起させるものが多かった。
しかし、「そんなはずはない」という常識的な思考から、それを問いただそうとはせず、ついに両親だという確信に至ることはなかった。
……よくよく考えれば、黒騎士や白騎士が日本語を喋った時点で、鋼侍は怪しむべきだった。――もし鋼侍にそれを指摘したならば、「言葉が通じるのは〝お約束〟じゃないのか?」などと返ってきそうだが……。
「――2人とも、その姿はいったい……?」
改めて〝中の人〟の正体を知ると、守と祭離の格好はまるでコスプレ衣装のようでもあった。
しかし、その格好がだてではないということを、鋼侍は身をもって体験していた。
「ああ、これは前世の姿さ。……ガワだけね」
「前世ぇ?」
祭離の答えに疑わしげな顔をした鋼侍だったが、ここで彼はレグラの言葉を思い出す。
『――〝異分子〟は排除スル。……〝ハセコー〟の両親を始末したときのヨウニ』
レグラはそんな風に言っていた。
「あー……。だから、レグラに殺された――ってこと?」
鋼侍の中で、話がつながった。
両親はそろってうなずき、祭離が軽く問いかける。
「……納得行かないだろ?」
「――当たり前だ」
鋼侍は改めて、レグラへの怒りに火をくべる。
レグラの話を思い出したところで、鋼侍は状況を再認識する。
「そうだ! 早く元の世界に戻らなきゃ――」
あせりを露わにする鋼侍を、守と祭離が次々になだめる。
「まあ待て、鋼侍」
「相変わらず、そそっかしいねえ。あんたは」
「――で、でもさあ……!」
なおも言葉を続けようとする鋼侍を、守が片手を上げて制する。
「祭離から聞いていると思うが、ここでの時間の流れは他の世界とは異なる」
「――まだあわてる時間じゃない、ってことさ」
「そ、そっか……」
2人にそう言われ、鋼侍は落ち着きを取り戻す。
確かに、黒騎士――祭離はそう言っていた。
このダンジョン内での時間は、外界の300倍の密度を持つ。
たとえ1時間話し込んだとしても、外で経過する時間は十数秒だ。
守が話を続ける。
「――そして、俺はここに来る直前まで、元の世界の様子を見ていた」
そう。守と祭離は役割を分担していたのだ。
一方が鋼侍の指導兼案内役を務め、他方は現世の状況を把握しつつ最後の壁となる――そのように担当を分けていた。
守の言葉を聞いた鋼侍が、再び平静を失う。
「……い、いま、どうなってるんだ? 叶純や世音さんは無事か!?」
守は首を縦に振る。
「ああ、2人とも無事だ。……あの雨江という男も含めてな」
「良かったぁ……。――雨江はどうでもいいけど……」
鋼侍はほっと胸をなで下ろした。
……が、続く守の話によって、ますます驚かされる。
「レグラは龍ノ顎ダンジョンを暴走させ、『ダンジョンブレイク』を引き起こそうとしていた。――が、その企てはさららによって防がれた」
「えぇっ! ――って、さららが!?」
――探索者資質すら持たないさららが、いったいどうやって!?
そんな思いが顔に浮かんだ鋼侍に対し、守は「フッ」と笑みを見せる。
「異世界の神の助けを得たのだ。――さすがは俺たちの娘だな」
――それを聞いた鋼侍の両目が、点になった。
「は……? ……イセカイ……?」
あまりに端的な守の説明は、鋼侍の理解が及ぶ範囲をはるかに超えていた。
「あー……。あたしから説明しようか」
「……ふむ。その方がいいかもしれんな」
そんなやりとりもありつつ……――祭離は守と協力して、なんとか鋼侍に状況を理解させた。
このとき祭離と守はついでに、2人の前世についてもかいつまんで鋼侍に説明した。先ほど祭離が言及したような冗談を除いて、2人が鋼侍に前世について語るのは、これが初めてのことだった。
見たこともない異世界の話に、鋼侍は目を白黒させた。が、このダンジョンで2人の超人的な力を存分に体感したこともあって、疑いを持つことはなかった。
「――あたしと守は、1万年ぐらい戦り合ってたことになるのかねえ?」
「地球の時間換算だと、そのくらいだな」
「いっ……1万年――っ!? ……そりゃ、敵わないわけだ……」
このような会話によって、2人の強さの理由についても納得する鋼侍の姿があった。
その後、現世で起こったひと通りの出来事を聞いた鋼侍の反応は、というと――
「――さっすが、さららだな! 異世界の神さまを味方につけるなんて! レグラ、ざまぁっ!」
……と、一転して非常に上機嫌になった。
祭離がそんな鋼侍を生温かい目で見る横で、守は全く同意見だと言うように頷いていた。
「あまり浮かれてばかりもいられないよ。……そのせいで今度は、さららがレグラに目をつけられちゃってるんだから」
「なんだって!? ――……あんにゃろ、許せん……!」
怒りを見せる鋼侍に対し、祭離は「しまった」という顔をした。もう少し後で言うつもりだった言葉が、つい口を突いて出てしまった。
「やれやれ……――もうちょっとゆっくり、話をしたかったんだけどねえ……」
鋼侍は闘志を高め、両拳のガントレットを打ち合わせる。――見るからに、落ち着いて話を聞ける状態ではなかった。
「――悪いな、母さん。それを聞いたら、1秒でも早くあっちに戻りたくなってきたぜ」
さららが危ない――そう聞いて、じっとしていられる鋼侍ではなかった。
そんな鋼侍を見て、祭離は苦笑する。
「ああ……。こうなったら、あんたが引くようなヤツじゃないってことぐらい、知ってるさ」
そこで、白騎士の鎧を着たままの守が、自分の後方にあった壁の1箇所を指し示す。
さっきまで透明な壁でしかなかったはずの場所に、いつの間にか人1人が通れるような虹色の扉が出現していた。
「……転移の準備はできている。――お前がそこの〝ゲート〟を通れば、一瞬で元の世界に戻れるはずだ」
「――よっしゃあっ!」
それを聞くや否や、〝ゲート〟目がけて勢いよく駆け出そうとする鋼侍だったが――
「ちょいと待ちな!」
「ぐえっ!」
黒い風と化した祭離に首根っこを掴まれ、両足を宙に浮かせてうめいた。
「――な、何すんだよ、母さん!」
鋼侍がよろめきながら振り返ると、祭離はやれやれと首を振っていた。
祭離は鋼侍に言い聞かせる。
「あんたね……。今のままノコノコ現場に戻っても、――またレグラに負けちまうよ!」
「そ、そんな……!」
鋼侍は、がーんとショックを受けた。
――祭離に鍛えられ、今の守との戦いでも大きな手応えを感じていたのに、まだレグラには勝てないというのか……
「下級とはいえ、相手は神だからな」
当然のように、守が言った。
「だからって、ここでじっとしてるわけには――」
「まあ、落ち着きなよ」
なおも食い下がる鋼侍に対し、祭離が両肩に手を置いてなだめる。
「もちろん、あんたにはあっちに戻ってもらう。だけど、その前に受け取ってもらうモノがあるのさ」
「俺に渡すモノ……?」
問い返す鋼侍に、祭離がうなずく。
鋼侍には〝それ〟が何なのか、全く見当がつかなかった。
「――そう。あたしと守が持つ、ある〝特別な力〟さ」
「2人の力を、俺に……?」
祭離はまだ詳細を伏せてはいたが、そう聞いただけで、鋼侍にはそれがものすごいことのように感じた。
なぜなら、鋼侍が逆立ちしても敵わないような2人から、力を分け与えてもられるからだ。
――それってもう、実質無敵なのでは……?
鋼侍がそう思うのも無理はなかった。
きょとんとしたままの鋼侍に対し、守が言う。
「……俺たち自身、レグラに対して思うところがないわけではない」
それはそうだ、と鋼侍は思う。
なにせ両親にとってレグラは、自分の命を奪った張本人だ。
――むしろ、2人がレグラをわからせた方が話が早いのでは……? ――と、両親の強さを知った今、鋼侍はそう思わないでもなかった。
「――が、これでも一応、死んだ身の上だ。あまり現世に干渉しすぎるのも良くないらしい」
なるほど、そうなのか――と、鋼侍は思いつつ、元凶であるレグラに対する怒りを新たにした。
「鋼侍……――あたしらの代わりに、アイツをぶっ飛ばして来ておくれよ」
「ああ!」
祭離の言葉に、鋼侍は再びガントレットを打ち鳴らして応えた。
元よりそのつもりだったが、そう言われていっそう気合が入った。
(……待ってろよ……。親父と母さんの分まで、きっちりリベンジしてやるからな……!)
そして、守がその〝特別な力〟の内容を明かす――
「――俺たちからお前に継承するのは、〝神殺し〟の力だ」
「〝神殺し〟……」
――――ドクン、…………
その凶々しい響きに、鋼侍は心臓が高鳴るのを感じた。
「文字通り、神さまと戦うための力さ」
祭離が付け足すように言った。
それはまさに、鋼侍がいま必要としている力だった。
「――この力を得れば、『神域』にいるレグラの本体にも刃が届くだろう」
「レグラだけじゃない。――もっと、上位の神さまだって出て来るかもしれない。……それでも力を引き継ぐ覚悟が、あんたにあるかい?」
守と祭離は、先ほどまでの和気あいあいとした雰囲気がうそのように、真剣なまなざしで鋼侍と向き合う。
両親と1人ずつ、しっかり目を合わせた鋼侍は――
「ああ!」
――迷いもためらいもなく、頷いた。
蛇足ですが、4章末「幕間 神の誤算」の回で、神テラが守と祭離に攻撃をしていた場合、〝神殺し〟の力が込められた反撃によってひどい目に遭っていました(笑)




