#76 真打ち登場【鋼侍視点】
――龍ノ顎ダンジョンの地下10階層。〝赤宮殿〟内の大広間にて。
俺、叶純、世音さんの3人は、ホール内で待ち構えていたダン対(=ダンジョン対応戦隊)の雨江輝人という青年と向かい合っていた。
世音さんが、1歩前に進んで言う。
「――で、その〝甘えん坊〟が俺たちに何の用だ? さっきからネットがつながらねぇが、コレもお前の仕業か?」
「……プッ!」
そのセリフに、俺はつい噴き出してしまった。
〝甘えん坊〟……って、あいつの苗字と掛けてるのか。
世音さん、上手いこと言い過ぎッスよ〜。
「あ゛?」
すると、雨江の顔にピキピキッと青筋が浮かんだ。
……あっ、これは……かなりキレてるな……
その次の瞬間だった。
――雨江が猛スピードで世音さんに接近する!
マズい!
「――世音さん!」
「ロートルは引っ込んでろッ!!」
警戒を呼びかける間もなく――
雨江の強烈なハイキックが、世音さんの首筋に炸裂した!
「ぐわぁっッ!?」
世音さんは斜めを向いた姿勢で吹き飛び、バンッと背後の赤い壁に叩きつけられた。
……どうやら、そのまま気絶してしまったようだ。
――クッ……! 声を掛けずに割り込むべきだったか……!
「そんなっ! 世音さんッ!」
叶純があわてて介抱に向かう。
……あの世音さんが、まともにガードすらできないなんて……
――コイツ、こんなに強かったっけ……?
タイラントドラゴンを倒したっていうのは、ハッタリじゃなかったのか。
――でも、S級最強の世音さんがこんなにあっさりやられるなんて……
雨江は倒れた世音さんに向かって、勝ち誇ったような顔で言う。
「ハッ、死に損ないがっ! あんたの時代はもう終わったんだよ!」
いや……本人気絶してるから、聞こえてないけどな。
――ってか、やっぱりメチャクチャ失礼なヤツだな。
俺、こいつキライ。
「……よくも世音さんをやってくれたな……」
俺は怒りを込めてこう言った。
――が、雨江は何がおかしいのか、ニヤニヤと人を馬鹿にしたような笑みを浮かべていた。
……あー、ムカつくな、コイツの顔!
「――やり過ぎたなぁ、ハセコー!」
「はっ……?」
何言ってんだ、こいつ?
――いま、俺の話なんかしてなかっただろ?
雨江は、そのまま気持ちよさそうに話し続ける。
「お前は【神】に目をつけられたんだよ! 後先考えずに【シナリオ】をメチャクチャにした罰だな! ざまあみろ〜」
最後の「ざまあみろ〜」のところで、両手をひらひらと動かして思いっきり俺を煽ってきやがった。……子供かよ、コイツっ!
「……神? シナリオ?」
そもそも何言ってるのかさっぱりわからない件。
……コイツ、人の話とか全然聞かないタイプだよな。
――とりあえず、一発ぶん殴ってから考えるか?
雨江はますます調子に乗った様子で、甲高い声でキャンキャンと叫ぶように言う。
「わからないのかぁ? そうだよなあ! この世界のことを知ってるのは、【主人公】であるこの俺様だけだからなあ!」
「……主人公?」
イラぁっ……!
……つーか、コイツ、ひょっとしてメチャクチャ痛いヤツなのでは……?
あー……これなんか、アニメとかでよく見る展開に似てる気がしてきた。
あの、悪党がヤラれる前にベラベラと大事な情報を吐くターン。
――よし! 一旦、コイツにはこのまま気分よくしゃべらせてみよう!
……そんで、その後でシメる。つーか、泣かす。
世音さんのカタキは俺が取る(死んでないけど)。
……めちゃくちゃムカつくけど、ちょっとだけガマンしよう。
「そうだ! 俺様こそ、この世界の【主人公】なんだよ! モブのお前は、主人公様の踏み台にでもなっておけばいいんだよ!」
「――それで、俺を踏み台にしに来た、ってわけか?」
俺がそう問うと、ヤツは大きくうなずいた。
「そうとも! 【レグラ】に協力してもらった俺は、このダンジョンで大いに経験値を稼がせてもらった! いくらてめえがクソチート野郎だとしても、余裕でブチ殺せるぐらいにな!」
「レグラ……?」
また、わからん単語が出てきたな。
この辺がキーワードなのかもしれんな。
「おっと……しゃべりすぎたか?」
雨江がふと我に返ったかのように、片手で口元を隠す。
あ、やべ。冷静になっちゃった。
……まあ、もういいか。どうせ、話通じそうにないし。
雨江は手を口元から離すと、またあの気持ち悪いニヤニヤ笑いを見せる。
「まあ、いいだろう……。どうせお前はもう死ぬ。なぜなら――ここで俺様が殺すからなぁ! クックックッ……。そして、カスミは俺のモノになるのだ」
「――なんだと?」
いま、聞き捨てならないセリフがあったな……?
……叶純をモノ扱いだと……? ……――許せん。
――死刑、確定。
そう思い、俺がガントレット――『破天』を両手で構えたときのことだった。
――一陣の風が、目の前を駆け抜けて行った。
「――――アンタのモノになんか、誰がなるかぁっッ!!」
グシャァッ!!
「――ギャアア゛ァッ!?」
――――あっ…………斬られた…………
俺の視界には、白銀の太刀『白虎』を振り抜いた、叶純のたくましい背中が映っていた。
……すげぇ音がしたな。
当然、みね打ちだろうけど。
そうじゃなかったら、アイツの上半身と下半身はお別れだ。
――雨江のコンバットスーツの前面は、叶純の剣撃によって斜めにボコッと凹んでいた。
……ありゃあ、アバラの半分はイッてるな……
雨江の顔は、あのムンクの絵みたいなことになっていた。
――完全に白目をむいており、口からは泡を噴いていた。
ヤツは両手を前に上げた姿勢で、ヨロヨロと数歩後退した。――そして、そのままドサッと地面に崩れ落ちた。
――――あれ……? もう終わった……?
なんか……あれこれ言ってた割には、意外とあっけなかったな。
まあ、みね打ちとはいえ、本来ならアジ・ダハーカの鱗すら斬り裂く一撃だからな……。今回はそれに激しい怒りが乗ってたし。
叶純を怒らせたのが運の尽きだったか……――ま、自業自得だな。
ざまぁ!
あー、スッキリしたぁ。
これで一件落着か……と、思ったそのとき――
この大ホール〝巨竜の間〟にふと、新たな気配が現れた。
「――……やはり、【主人公】は期待ハズレ…………」
年齢も性別もわからない、無機質な声が響いた。
ゾワッ……と全身に悪寒が走った。
――なんだ、コレは……?
いつの間にか、ソイツはすぐそこにいた。
見た目は、割とふつう。
――ただし、ダンジョンには不似合いだ。
シンプルに言えば、西洋人形のような少年だ。
銀髪で、瞳だけが金色。異様に整った左右対称な顔立ち。
シルバーのスーツは、赤茶けたダンジョンでは違和感が強い。
コイツは、さっきの雨江とは比べものにならないほどヤバい気配を放っていた。
……なんというか、俺たちとは存在の〝密度〟が違う感じだ。
魔素やSPとも違う。
その小さな体に、得体の知れない〝何か〟をたっぷりと秘めている。
……ジワジワと、頭や背中に汗が噴き出してきた。
――コイツ、ひょっとして、あのアジ・ダハーカよりもヤバいやつなんじゃないか……?
人形のような少年が、再び無機質な声を放つ。
「我はレグラ。――これより〝特異点〟である〝ハセコー〟を抹消スル」




