#71 攻略祝賀パーティー(前編)【鋼侍視点】
X級ダンジョンの攻略から2日後。
俺――破瀬鋼侍、並びに日本からバルディア国に派遣された一団は、全員がバルディアの首都にある王宮に招待されていた。日本人だけではなく、リタやベンといったダンジョンを攻略した仲間たちも一緒だ。
招待の題目は「X級ダンジョン攻略記念祝賀パーティー」――俺たち関係者の慰労も兼ねたイベントとのことだ。……要するに、打ち上げパーティーってことだな。
「――キャー! ハセコー! カスミー!」
「――英雄たちの凱旋だー! バンザーイ!」
この日の日中には、首都で凱旋パレードなんてのもあった。
俺たちダンジョン攻略チームの5人は、最大の活躍をした英雄ということで、先頭の1番目立つ大型車両の屋根に乗せられた。そのままみんなで周りの全方位に手を振りながら、約1時間かけて首都の中心部を1周した。
どこを見ても人、人、人の集まりで、どの人もいい笑顔をしていたよ。……まあ、悪い気はしないよな。
――で、夕方になって、パーティーの会場である王宮に移動した。
「おぉ、これが王宮か……」
「お兄、キョロキョロしないでよ」
大きな門を通って敷地内に入ると、巨大な白亜の宮殿が姿を現した。……ざっと、東京ドーム並の大きさかな。
全体的に、左右対称で調和の取れた建物という印象だ。派手ではないが、格調高い感じ。
バルディア共和国は、元は王国だったそうだ。共和制になってからは王家が国政に関わることはなくなり、国王は象徴的な役割になったとのこと。日本の天皇や皇族と一緒だな。
ちなみに、いま俺やさららが着ている服は、バルディアの人たちが用意してくれた貸衣裳だ。
さすがに王宮に着て行ける服なんて持ってなかったから、助かった。
さららは、清らかな水の流れをイメージしたような水色のドレスを着こなしている。
――これが、めっちゃピッタリ似合っててヤバい。
「さらら、こっち向いて〜」
「……もう、まだ撮るの?」
この感動を後世に伝えなければ……と思った俺は、写真を撮りまくろうとした。
……が、数枚ほど撮ったところで、さららから「もういいでしょ」と言われてしまった。ぐぬぬ……
†
『……長きに渡って我が国を苦しめてきたX級ダンジョンが攻略されたことは非常に喜ばしい。ダンジョン攻略の中核を担った精鋭チーム、日本の派遣団のみなさまに心から感謝を述べたい……』
宮殿の一角にある大きな宴会場にて。
ステージに上がった王様が、集まった200人以上の参加者を前にスピーチをしていた。
王様は旧来の母国語であるアラビア語で喋っていたが、耳元に着けたパッチフォンから、同時通訳で日本語が聴こえてきた。なかなかハイテクなサービスだ。リタやベンあたりは英語で聞いているのだろう。
パーティーは立食のビュッフェ形式だった。
マナーとかよくわからないから、堅苦しくないのはありがたいな。
「……コージ、タキシード似合ってるね」
歓談が始まってすぐ、近くにいたリタがシャンパングラスを片手に話しかけてきた。
「お、おう……そうかな?」
俺のレンタル衣装は黒のタキシードだ。他には、よくアラビアの男性が着ているような真っ白なローブのような衣装もあったのだが、「似合わない」とさららに却下された。
ちなみにリタは胸元が大胆に開いた真っ赤なドレスを着ており、正直目のやり場に困る。
……あの大きさは、もしや叶純以上なのでは……?
「ふふ、コージ。アメリカ行きの件、考えといてね」
「あ、ああ……」
リタに上目遣いでそう言われて、不覚にもドキッとしてしまった。
……アメリカねぇ……
――そもそも、俺って気軽に海外へ引越しとか、許される立場なんだろうか?
パーティーの最中、俺は色んな人に話し掛けられた。
だいたいは英語で、俺が英語を話せないとわかると諦める人も少なくなかった。が、中には、通訳できる人を確保した上で話そうという人もいた。
上手く話せたかはわからないが、ノリでなんとかなったような気がする。
開始から30分以上たったころ、俺は急に片言の日本語で話し掛けられた。
「――コージ、イマ話セル?」
振り返った俺は、その相手を見て驚いた。
「えぇっ! ナジャ!?」
それは同じダンジョン攻略チームの一員だった、バルディア人女性のナジャ・アッ=サイヤードだ。
彼女はエキゾチックなアラビア風のナイトドレスを着ていた。
……ナジャも意外とスタイルいいから、こういうの似合うな……
「――に、日本語わかるの?」
俺の問いに、ナジャはコクリとうなずく。
「ワタシ、日本ノコミック、好キ。聞クノハ、ダイタイワカル」
――そ、そうだったのか!
……ってか、日本のマンガ好きなんだ。堅いキャラだと思ってたから、意外すぎる。……どんなマンガ読むんだろ……
ナジャはきらきらした笑顔で、俺の手を握る。
「コージ、今回ハ本当ニアリガトウ。オカゲデ父ノ無念ヲ晴ラスコトガデキタ」
……こういうのを、「憑き物が落ちた」というのだろうか。
今のナジャは、初対面のときのあの余裕のない雰囲気とは全然違う。
――その変化の理由はきっと、自らの手で国の災厄を取り除き、お父さんの仇討ちを果たしたことなんだろうな。
「俺だけの力じゃないよ……」
ダンジョンの攻略はみんなの成果だ。
もちろん、ナジャもそのみんなの一員だ。
――まあそんなことは、わざわざ俺が言うまでもないみたいだけど。
「フフッ、コージハ謙虚。モチロン、ミンナニ感謝シテル」
ナジャは柔らかく笑った。
ダンジョンに行くときとは違って、メイクアップした彼女の笑顔は映画に出れるんじゃないかと思うほど美しかった。
「マタ、イツデモ遊ビニ来テ。妹モ一緒ニ」
「おう。――さららも?」
俺が首をかしげると、ナジャはあるテーブルの方に視線を向けた。
そこでは、笑顔のさららの隣で、あるバルディア人の青年がデレデレと顔を赤くしていた。
――あ、あいつは……! ナジャの担当オペレーターをしていた、カリムじゃないか!
「サララガ来ルト、弟モ喜ブ」
そういえば、カリムはナジャの弟だったな……
――だからって、俺が大目に見るとでも思ったか!
「――あんにゃろう、俺の妹に何してやがる!」
「アッ、コージ……!」
頭に血が上った俺は、脇目も振らずにさららとカリムのいるテーブルに直行する。――なんかまだナジャが言ってたような気もするが、それどころではなかった。
……やいやいやい、カリムさんよう!
人の大事な妹を前に、どうしてそう鼻の下を伸ばしてらっしゃるんで?
――この後の行動で、俺はメチャクチャさららの機嫌を損ねてしまった。
……そして、他ならぬカリムにフォローされる始末だった。トホホ……
……クソっ! これっぽっちのことで、俺がお前を認めるなんて思うなよ……!
††
――宴もたけなわとなった頃。
俺はひと息つこうと、宴会場のテラス席から中庭の方に降り立っていた。
ふと奥の方に見えた泉まで歩いてみると、そこは誰もいない秘密の場所のようだった。
パーティーの喧騒が、少しだけ遠い別世界の出来事のように感じられた。
芝生に囲まれた円形の人工池。
今はそこに、まん丸い月も浮かんでいた。
そのほとりまで歩いたところで、俺は後ろを振り返った。
「――……鋼侍……?」
透き通るような声に、名前を呼ばれた。
少し後ろから彼女がついて来ていたことが、俺にはわかっていた。
今夜の彼女は、大人っぽいグリーンのドレスに身を包んでいた。
あどけなさとかっこよさが同居した彼女によく似合っていると思う。
……そろそろ、返事をしないとな。
「叶純――――」
少しお酒が入っているためか、叶純の頬は赤らんでいた。
月明かりの下で見る彼女のあでやかさに、息をするのも忘れそうだった。
――ついに、この時が来た。
俺はそう思った。




