表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/90

#70 【特別配信】X級ダンジョン・ボス戦リプレイ

 バルディア国のX級ダンジョン。

 ――歴史上、最大規模の「ダンジョンブレイク」を起こした災厄の発生地点(グラウンド・ゼロ)。また、その後6年間に渡って多くの優秀な探索者たちを葬り、退(しりぞ)けてきた難攻不落のダンジョンだ。


 破瀬(はせ)鋼侍(こうじ)たち世界最強の探索者チームの奮闘(ふんとう)によって、ついにそのダンジョンが完全攻略された。


 そのニュースはまたたく間に世界中を駆け巡り、一大ニュースとなりつつあった。


 これは、鋼侍たちがダンジョンを攻略してから約4時間後――日本時間で夜10時から始まる約2時間の出来事だ。



 ――夜10時前。

 日本に2千万人以上いると言われるダンジョン配信ファンの多くは、ダンジョン管理局の公式アカウントから事前告知されたある配信が始まるのを心待ちにしていた。


 それは――



『みなさん、大変長らくお待たせしましたーー!!』



《キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!》

《やっと始まったー!》

《ktkr wktk》

《きゃー、さららちゃん! 待ってました!》



 現役女子高生、破瀬さららの顔が配信画面に映し出されると同時、配信アプリ上のコメント欄が滝のように流れ出した。


 その視聴者の熱気は、ライバーとして配信を担当するさららを圧倒するものだった。


『ウソっ! もう同接200万!?』


 事前告知があったとはいえ、メインコンテンツの開始前からこれほどの視聴者が押し寄せていたことに、さららは驚かされた。


 さららが今いる場所は、アル・ガイブ軍基地内に臨時に設けられた配信用の特設ブースだ。

 メインのライバーはさらら1人だ。他に、PCやカメラなどの操作のため、ダンジョン管理局のスタッフがサポートについている。


『し、失礼しました! 告知をお読みになった方はご承知のことと思いますが、ちょっとだけ簡単に説明しますね』


 さららは軽く原稿を確認しながら、説明を始める。


 視聴者の興奮は収まる様子がなく、まるでエサを目の前にしてお預けを食らった飼い犬のようだった。


《ボス戦まだかなーっ!》

《くぅ〜っ! ここに来てまだじらされるのか〜!》

《お前ら、さららちゃんを困らせるんじゃねぇ!》


 さららは早々に大量のコメントを目で追うのを諦め、ざっくり雰囲気を把握するのみに留めることにした。


『今回の配信では、あのバルディア国のX級ダンジョン攻略戦――守護者(ガーディアン)討伐(とうばつ)戦の模様をお伝えします』


 この配信は、日本からバルディア国への強い要望によって実現したものだ。交渉を担当したのは外務省だが、裏にはダンジョン配信ビジネスに関係する政府や経済界の大物らの意向が絡んでいた。

 なにせ、世界で唯一にして最悪の災害となったX級ダンジョンの攻略である。

 世間の関心は高く、その配信には大きな経済効果が期待できた。


 実際、ダンジョン管理局はすでにベヒーモス戦を始めとした攻略の模様をいくつかアーカイブ形式で配信しており、それらは大きな人気を博していた。

 特に、ベヒーモス戦をフル収録した動画は今日までに3千万回を超える再生回数を叩き出していた。


 そのような事情から、日本政府は派遣団に次の指示を出した。


〝ダンジョンの攻略が成功した際には、一刻も早くそのハイライト――即ち守護者(ガーディアン)戦の模様――を公開配信すること〟


 そのため、さららたち日本人スタッフは、ダンジョンの攻略を見届けるとあわただしく配信の準備をすることになった。現場でドローンによって撮影した映像を大急ぎで確認・編集して、なんとかこの時間の配信開始に間に合わせた、というわけだ。


 ちなみに、さららによる日本語での配信と同時に、海外オペレーターチームが中心となって英語版の配信も行われている。

 そちらにも、すでに世界中から記録的な数の視聴者が押し寄せていた。


『……人類を苦しめ続けたX級ダンジョンのボス、それはあのベヒーモスをも上回るほどの強敵でした。戦闘時間はなんと2時間以上! 一部編集を行った箇所もありますが、ほぼノーカットでお届けします!』


 話している内に、さらら自身もつい数時間前にリアルタイムで見たボス戦の模様を思い出し、自然と声に熱が入る。

 それに呼応するように、視聴者の反応も加熱していた。


《ベヒーモス以上ってやべぇな! ……死者とか出なかったのかな?》

《死者出てたら、さすがにニュースになってるんじゃ?》

《2時間! ……あれ? ベヒーモスもそのぐらいじゃなかった?》

《うおおお、ノーカット熱い!》


『――それでは、ここからはVTRを映していきますね』


 さららのそのセリフを合図に、配信用のPCをスタッフが操作し、編集したボス戦の動画をメインで映し出す。

 さららは画面の片隅に移り、ところどころで実況や解説をはさむ形だ。



 ――動画内では、リタ・フェニックスを先頭とした5人の探索者パーティーが、広いボス部屋の中に足を踏み入れていた。


『あれが――このダンジョンの守護者(ガーディアン)か……』


 動画内の鋼侍(こうじ)の声が再生され、視聴者の耳に届く。この動画内では、探索者やオペレーターが発した声も上手く編集して取り入れていた。


 映像の方では、鋼の鱗を持つ三頭の竜が攻略パーティーの前に舞い降りていた。


《ボスは竜種か。強そうやな〜。見るからに硬そうやし》

《飛行タイプって厄介だよね。飛ばれたら攻撃が届かないし》

《名前、なんて言うんだろう。……「アジ・ダハーカ」?》

《外人さんの声入ってるな。海外のオペレーターの人かな》


 ちょうど、カリムというバルディア国のオペレーターが、アジ・ダハーカの伝承について語っていた頃だ。念のため補足すると、日本語でない発言については翻訳(ほんやく)が字幕で表示されている。


 「アジ・ダハーカ」は、登場してしばらくは探索者たちの出方をうかがっていた。


《なんや、攻撃して()いひんやん》

《力をためている?》

《なんにせよチャンスだろう。リタの判断は正しい》

《ちゃんとベンを防御に残してるあたり慎重だよね》


 リタの判断に従い、ベン以外の4人の探索者が一斉攻撃を放つ。しかし――


《よーし! 入ったー! ……って、あれ?》

《あんまり効いてない? カスミとナジャの攻撃がまさかのノーダメージ!?》

《ウソやろ……「断空(だんくう)」が通じんとか……そんなんチートやん……》

《これって、S級の3人は戦力外ってこと?》


 それは、アジ・ダハーカの恐るべき防御力を明らかにする結果となった。


 その直後、「アジ・ダハーカ」は自身の左側にいた探索者たちに向けて必殺の光線ブレスを初披露(ひろう)する。


《ビームライフルやんww こっわ》

《おいおい……防御スキル発動させてたベンの盾にでかい穴が空いてるよ……》

《冗談でしょ……あの盾って、当然S級魔鋼(まこう)製だよね……?》

《ハセコーがふつうに防ぎきってる件》

《……ハセコーはバグキャラだから……》


 視聴者はそのブレスの威力(いりょく)驚愕(きょうがく)した。

 ……なお、その内の一部は、鋼侍の防御力にも驚嘆(きょうたん)した。


《ね、ねぇ! ナジャの左足がなくなってるよっ! すごい血! あれって、もう治らないんじゃ……》

《ポーションでも部位欠損は治らないからね……。S級とかX級なら行ける?》


 やや痛々しい映像が流れたところで、ライバーのさららから解説が入る。


『――あ。ナジャさんの左足は、X級ポーションで完治しましたので、ご安心ください』


 それを聞いて、コメント欄には安心する反応が数多く流れた。


《それなら良かった》

《X級ポーションってすごいんだな》


 ただしこの直後、鋼侍とリタの判断によって、S級探索者3名に対して後退の指示が出されてしまう。


《あー、やっぱ3人は後退かー》

《ダメージも与えられんしな。妥当(だとう)な判断だと思う》

《そんな……カスミ様の活躍が……》

《でも、たった2人じゃキツそうだよね。どうやってここからあのボスを倒したんだろう?》



『……ここから、しばらくは苦しい展開が続きます』


 ライバーであるさららが、神妙な声で告げた。

 その言葉通り、戦況は長らく停滞(ていたい)が続いた。

 次に戦況が動く約1時間後までの間、視聴を中断する者も現れるほどだった。


《……いや、もうこれ無理だろ》

《さっきから、翼以外まともにダメージ通ってなくね?》

《いや……ダメージは通っている。ただ、アジ・ダハーカの再生力が高すぎるんだ》

《よく心折れないな。俺ならもう撤退してるね》


 鋼侍(こうじ)とリタは高い防御力と再生力を持ち合わせたアジ・ダハーカに苦戦を強いられていた。

 とはいえ、見せ場がまったくなかったわけではない。


《おい、ハセコー1人でボスと戦ってるぞ!》

《マジかよ! あいつホント頭おかしいなあ!》

《こんだけ戦ってたら、そりゃSPも尽きるよな……。リタは常識の範囲内だった》

《ベヒーモス戦でも出ずっぱりだったし、やっぱハセコーは異常》


 この1時間の間に2回、鋼侍は1対1でボスと戦った。

 それは他の誰にも真似(まね)できない偉業だった。


 そして、その2回目のとき――


 ついに鋼侍が、アジ・ダハーカの首の1本を斬り落とすことに成功する。


《やった! 首1本落としたぞ!》

《うおおおー、ハセコーすげえぇーっ!!》

《オーラシールド・サイクロン? かっこいいじゃん!》


 これで戦況が変わるか――誰もがそう期待した。

 ……しかし、事はそう上手くは運ばなかった。


《……ボス、怒っちゃったか》

怒涛(どとう)のラッシュだね。ハセコー、よく生きてるな》

《ハセコーだからね》

《とはいえ、さすがに防ぐので精一杯って感じだね》

《せめて今リタがいたら反撃できただろうに》


 首を1つ失ったアジ・ダハーカは猛然と反撃を行い、鋼侍は防御と回避に専念せざるを得なくなったのだ。


 それから約10分が経過し、ようやくリタが後方から戻って来たとき――


 鋼侍は一瞬の油断から、アジ・ダハーカの尻尾の直撃を受けてしまう。


《ハセコーが吹っ飛ばされたぞ!》

《ガントレット壊れてね?》

《……ってか、リタが前に残ってるの、ヤバくね?》


 その直後、アジ・ダハーカがリタをねらって、三つ首の口から光線ブレスを放とうとする。

 視聴者の誰もが、固唾(かたず)()んでそれを見ていた。


 すると――――


《えっ》

《はっ……?》

《――倒した……?》

《いや、何が起きたっ!?》


 なんと、アジ・ダハーカの三つ首がまとめて斬り飛ばされた。


 そして、視聴者たちは誰がそれを()したのかを知る。


『――待たせた、鋼侍』


 その声を発したのは――


《カスミっ!?》

《ウソっ!? 最初に「断空」撃ったときはノーダメージだったよね?》

《何があったんや……》

《いきなり強くなりすぎでワロタ》


 序盤で後退して以降、天王寺(てんのうじ)叶純(かすみ)の存在は視聴者らにとって意識の彼方(かなた)にあった。

 予想もしない強力な援軍に、配信のコメント欄も息を吹き返したかのようだった。


『――2人とも、話は後で! まだ終わってないよ!』


 その叶純のセリフによって、視聴者も戦いがまだ続くということを知らされる。


 それからの配信で一番の見どころとなったのは、覚醒(かくせい)した叶純の圧倒的な攻撃力だ。


《うおおおっ!! 「断界(だんかい)」だってよ。すげーな!!》

《確かに、今までとは別次元の威力だな……》

《パワーアップの理由は不明かー。何なんだろうなー》

《カスミ様……! 信じておりました……!!》


 しかし、戦いがその後数十分と続くにつれて、段々とアジ・ダハーカの脅威(きょうい)的な生命力に言及するコメントが増えていく。


《いや……まだ死なねぇのかよ、あのボス……》

《しぶとすぎぃ!》

《もはやドラゴンじゃないよね……キモトカゲ……》

《マジ動きキショい》

《ボス倒さないとダンジョン攻略できないからな……ここまで来て撤退はないわな》


 戦闘開始から2時間が経過したとき、その生命力のからくりが叶純によって(あば)かれる。


『――アジ・ダハーカには、心臓に相当する器官が体内にもう1つ(・・・・)存在する』


 その推測を受け、後退していたリタがアジ・ダハーカを仕留めるための作戦を立てる。


《……なるほど。(コア)が2つあるモンスターだったのか》

《同時破壊って難易度高っ!》

《――いや、あの3人なら行けるやろ!》

《……まあ、結果はわかってますからね》


 そしてリタが復帰した直後、3人の三位一体(さんみいったい)攻撃が始まる。


『――断界!』


 まず、叶純の放った「断界」が、アジ・ダハーカの胴体を唐竹(からたけ)割りにする。


《カスミの断界決まった!》

《ヒャッハー! 竜の開きだぜぇっ!》

《ハセコーとリタが断面に潜ったぞ!》

《ちょっと、あの役はやりたくねぇな……》


 その直後、アジ・ダハーカの背中から体内に進入した鋼侍とリタが、同時に決め技を叫ぶ。


『――光の盾攻撃オーラシールド・アタック!!』

『――プロミネンス・カリバー!!』


《うおおおぉぉ、決まったーーッッ!!》

《やったか……!?》

《やってないフラグ立てるのやめろ》

《死亡エフェクト始まったぞー》

《やっと倒せたー! 見てるだけなのに疲れたー!》


 3人の探索者による最大の攻撃が決まり、アジ・ダハーカが光の粒子に変わっていく。


 この瞬間、配信の同時接続数は最多の1千万以上を記録した。

 それは、これまでのあらゆるダンジョン配信の記録を塗り替える大記録となった。


『みなさん、最後までご視聴いただき、ありがとうございました! 我々日本派遣団は間もなく帰国予定です! これからもダンジョン配信を盛り上げていきますので、応援よろしくお願いします!』


《いや、すごかったな! めっちゃ見ごたえあったわ!》

《さららちゃんもお疲れさまー》

《ありがとう! これからも楽しみにしてるー!》

《8888888888》


 こうして、鋼侍たちのX級ダンジョン攻略劇は、日本――いや、世界のダンジョン配信界隈(かいわい)を熱狂と興奮のるつぼへと変えて幕を閉じた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ