#44 そうだ、京都行こう。【鋼侍視点】
「お兄。今度、大阪行くついでに京都のおみやげ買ってきてよ」
「はいよ」
妹のさららにそんなことを頼まれた。お安いご用だ。
この日は、11月13日の日曜。
俺とカスミ――じゃなかった、叶純は、明後日から大阪で世音さんの手伝いをすることになっていた。
大阪にあるS級の『鬼哭峠ダンジョン』でモンスターの間引きを行うためだ。
俺なんかがあの伝説の探索者「ゼオン」の手伝いなんて分不相応だと思うが、これでもS級探索者に上がった身だ。少しは役に立てるだろう。
――とか何とか考えていたら、
「そうだ! ついでに叶純さんと一緒に京都めぐりでもしてきたら?」
さららの口から、とんでもない提案が飛び出してきた。
「な! なんでそうなるんだよっ?」
とっさに叫んだが、さららはニヤニヤと小悪魔のような笑みを浮かべてこっちを見てくる。……くそっ、カワイイな、こいつ!
「え〜、いいじゃん。叶純さんも喜ぶと思うなあ」
「むう……」
――ていうか、さららは俺と叶純の仲について何を知ってるんだ?(注:筒抜けです)
なんか妙に手回しがいいというか、タイミングがいいというか……
そういえば、あの墓参りの後のアレも、よく考えるとちょっと不自然だったような……?
「とりあえず、叶純さんに聞いてみたら? 明日は2人ともお休みなんでしょ?」
「そうだな……」
明日、大阪入りの前日には何の予定も入っていない。叶純もそのはずだ。
移動日も兼ねた休日のようなものだ。
試しに叶純にメッセージを送ると、すぐに返事があった。
『鋼侍と京都? うん、行きたい!』
そのメッセージを見てほっこりしていると、さららが言う。
「――はい、決定」
…………あれ? 俺、いま顔に出てた?
†††
「京都久しぶりだな〜! 楽しみっ。鋼侍は京都行ったことあるの?」
「あ、ああ。中学の修学旅行以来かな」
明けて翌朝。
新幹線に同乗するため、朝9時半に叶純と品川駅で待ち合わせた。
リラックスした叶純の表情は、ダンジョン内での凛とした雰囲気とは全然違う。
――こっちが素なんだな……ってことが、ここ1週間ぐらいでやっとわかってきた。
この頃は、ようやく照れずに叶純の顔を見れるようになってきた。が、相変わらず叶純のそばにいるのが俺である事実を、容易に信じることができずにいる。
「…………なにしてるの?」
ほっぺたつまんでました。痛い。
「……いや。夢じゃないんだな、って思って」
「ヘンなの。鋼侍ってホント面白いよね」
そう言って、ころころと笑う叶純の笑顔が今日もまぶしい。
…………あれ?
ひょっとして、京都までの2時間。ずっと叶純と隣同士……?
俺は今さらになって、その事実に気づいた。
――――持つのか、俺の心臓…………?
†
「……こ、鋼侍。平気? 少しどこかで休む?」
「……い、いや。大丈夫だ」
――2時間後。
京都駅のホームに降り立った俺は、フラフラとその場にしゃがみ込んでしまった。
何度かヤバい瞬間はあったが、なんとか生還できた。
――新横浜を出たあたりで、おにぎりを食べてたときが一番ヤバかったな……
俺のほっぺたについたご飯つぶを叶純が取ってくれたかと思ったら、なんとその後――
イカンイカン! アレを思い出してはいけない!
「鋼侍? いきなり踊り出すなんてどうしたの?」
「ちょ、ちょっと体を動かしたくなってな」
……ふう。
なんとか記憶にフタをしたぜ。
叶純と2人でスーツケースを引きながら駅構内を歩く。
「荷物はロッカーに置いて行こっか」
「そうだな」
時刻は正午前。
京都駅に再び戻って来るのは、午後5時ごろの予定だ。
†
京都でのひと時は、俺にとっても心が踊る時間だった。
ちょうど紅葉の時期だったが、月曜だから観光客が少なくてラッキーだった。
……正直に言うと、紅葉よりも叶純に目を奪われてた時間の方が長かったかな。
とりわけ、叶純の着物姿は眼福だったよ。……大和撫子って実在したんだな。
その他で印象に残っているものを挙げると、叶純の希望で行った下鴨神社になるかな。
なんでも、縁結びの神様が祀られているんだとか。
「――なんだ、この木?」
「あ、それも見たかったやつ。『連理の賢木』っていうんだって」
「へー」
赤い柵の内側に立っていたのは、2本の木が途中で1本にくっついた不思議な木だった。
……なんか、ご利益がありそうだな。
俺はつい、そのご神木の前で手を合わせていた。
すると――
「こ、鋼侍……。ど、どうしてその木にお祈りしてるの?」
叶純が顔を赤くしてモジモジとしていた。
……? トイレにでも行きたいのかな……?
俺がとりあえず叶純の問いに答えようと思った、そのとき――
――ブルルル……
叶純のバッグから、ケータイの振動音が聴こえてきた。
彼女が取り出したのは、Dフォンではない私用の方のスマホだった。
「姉さんだ。……何かあったのかな?」
そう言って、叶純が電話に出る。
叶純が「姉さん」と呼ぶのは、俺たちのギルド『スター・ウィッシュ』の団長である神楽屋寧々さんのことだ。
『叶純! 今どこっ!?』
寧々さんの切迫した声が、俺にまではっきりと聞こえた。
「――京都だけど、何があったの?」
叶純が神妙なトーンで問い返した。
その次に寧々さんが放った言葉は、俺たち2人にとって大きな衝撃だった。
『鬼哭峠ダンジョンでイレギュラーが起きたの! 世音が行方不明だって!』
「――ウソっ!? 世音さんが!?」
叶純が驚きの声を上げる横で、俺も驚愕していた。
……ウソだろっ!?
あのゼオンが、ダンジョンで行方不明だって……!?
『連理の賢木』……京都の下鴨神社に実在する神木。神様の縁結びの力で2本の木が1本に結ばれたと言われる。また、根本には若木が芽生えている。恋愛成就(縁結び)や夫婦円満、安産などにご利益があると言われる。




