#43 西の異変
〈――エクセプション2個体カラ対象ヘノパラメータLガ基準値ニ到達シタコトヲ確認――〉
〈――トリニティ・システムEX、発動条件ヲ満タシマシタ――〉
〈――対象ノ生体データ、及ビ、グリモワールステータスヲ確認――〉
〈――対象ノマナ適性ヲ確認――〉
〈――対象ノ〝願望〟ヲ確認――〉
〈――確認、確認、確認…………――〉
†††
――大阪、鬼哭峠ダンジョン。
日本の五大S級ダンジョンの1つに、4名の探索者が入場していた。
S級探索者「ゼオン」が団長を務めるギルド『無明六文衆』の精鋭パーティーだ。
「まだ潜るんですか、世音さん?」
「ああ」
ギルドの副団長である幸村の問いに、ゼオン――四方津世音は短い言葉で応じた。
彼らのギルド名に含まれる「六文」は三途の川の渡し賃と言われる「六文銭」に由来し、日本史において真田家の家紋として使われたことが知られている。
『無明六文衆』というギルド名を字面通りに解釈すれば、〝ダンジョンという無明の地に挑む命知らずの連中〟という意味に取れなくもない。
――が、もちろんこの場にいる彼らは誰一人として、ダンジョンに命をなげうつ気などなかった。
「最近、全国のあちこちのダンジョンでイレギュラーが頻発している」
世音の言葉は事実だ。
その代表例が直近、東京で発生した松濤A級ダンジョンの「ダンジョンブレイク」だ。この事件は、大阪を拠点とする彼らにとっても大きな衝撃だった。
また、鋼侍の実力を明るみにしたB級ダンジョンでのオークロードの出現も、イレギュラーの1つとして数えられる。
「――もしS級ダンジョンでそれが起きたら大惨事になりかねん。だから、可能な限りモンスターの間引きはしておくべきだ」
非の打ち所のない論理だった。
長年日本の探索者界を引っ張ってきた世音の重みある言葉に、誰も異を唱えることはなかった。
「……まあ、その通りッスねぇ。……あ〜、カスミとハセコー、早く来てくれんかな〜!」
幸村は、やや冗談めかした調子でボヤいた。ちなみに、彼の探索者名は「ユキマル」である。
カスミとハセコー――即ち、天王寺叶純と破瀬鋼侍のことだ。
東京を拠点とするその2人のS級探索者が、明日には大阪へ応援に来る予定になっていた。先日は、世音が東京のS級ダンジョン探索の支援に赴いた。今度はその逆の支援が行われる形だ。
世音が不機嫌そうに眉をしかめる。ただでさえ彫りの深い顔立ちが、更に険しくなった。
「甘えてんじゃねぇ。てめぇらもS級モンスターの1匹ぐらい、自力で倒せるようになりやがれ」
「いや、S級はさすがにキツイっすよ。世音さん」
世音に苦言を返したのは、槍を主武器とする大楠というA級探索者だ。
そんな会話を交わしながら、4人の探索者たちはモンスターの討伐を続けた。
世音たち4名は3時間の探索を経て、地下9階層に至った。
いつもより入念にモンスターの間引きを行った彼らは、そろそろ帰路につくはずだった。
「……なんや。全然モンスターおらんやんけ」
幸村が言った。
「確かにな……」
地下9階層は、不気味なほど静まり返っていた。
探索者たちの足音は、ダンジョンの闇の中でいつもより大きく反響した。
この後に続く幸村の声は、ことさらに明るいものだった。
――それには、この不自然な空気を吹き飛ばすという目的もあったかもしれない。
「ほな、今日の間引きはこんなもんですかね? メインルートだけ軽く回って――――」
「――シッ! ……静かにしろ」
しかし、その声を世音がさえぎった。
このとき世音は、ダンジョンの異変を察知していた。S級探索者である彼は、直感力においてもギルド内の誰よりも上だ。
……ダンジョンの奥で、ふだんとは違う〝何か〟の気配が動いていた。
世音の顔に脂汗がにじむ。
まだ距離はあるようだったが、世音はその10年余りの探索者活動の中で体験したことのない威圧感を感じていた。
「ど、どないしたんですか? 世音さん……」
幸村と大楠、そしてもう1人のA級探索者が動揺し、バラバラと足音を立てる。
「黙ってろ……何か来るぞ」
「えぇ? ほんまに……?」
3名は、世音の側面と背後を守るかのように陣形を組んで身構える。
緊張や動揺はありながらも、一分の隙もない布陣だった。
――その直後、爆発的な〝何か〟の気配の高まりを感じ、世音の全身の肌が粟立った。
「やべぇッ!! お前ら、今すぐここから逃げろッ!!」




