#41 新たな武器
八王子A級ダンジョン、地下7階層。
銀座ダンジョンにも匹敵するほど、強力なA級モンスターがはびこる危険地帯だが、今の俺――破瀬鋼侍にとっては、とてもそうは思えない。
薄暗いダンジョン内の景色が、目まぐるしく移り変わる。
俺が高速で動いているからだ。
キマイラやグリフォンといった有名なA級モンスターらも、まるで俺の動きについて来れない。
……あくびが出るぜ――なんてな!
俺は両手両足を存分に動かし、身に着けた新しい武器でモンスターどもを仕留めていく。
「グガッ!?」
「ゴギャッ!?」
モンスターどもは俺の影さえ踏むことなく、光の粒子へと還っていく。
まさに、これぞ無双、という状態だった。
……そうやって、少しいい気分になってしまったのが、悪かったのかもしれない。
『――ちょっと、お兄! さっきから全っ然カメラに映ってないんだけど!』
いけねっ。……また、やっちまった。
音声デバイスの向こう側で叫び声を上げたのは、オペレーターのさららだ。今は地上のギルド拠点にいる彼女は、俺の最愛の妹でもある。
「悪い、さらら。つい……」
カメラに映る位置で、足を止めて謝る。
……まあ、ここまでが〝お約束〟というやつではあるのだが。
《来た来たキターーッ!! 暗殺者スタイルからの、さららちゃんのツッコミ! やっぱ、それでこそハセコーだよなぁ》
《――あれ? ハセコー、今日バール持ってないやん。ひょっとして、また壊した(笑)?》
《違うって。ほら、いま装備してるヤツが新しい武器だよ》
《……え? どれどれ?》
両目に着けたスマートコンタクトレンズの片隅に、そんなテキストコメントが流れていた。
そう。今はダンジョン探索のライブ配信中だ。
「――武器の調子はどう?」
視聴者のコメントを受けてか、この場にいたもう1人のS級探索者であるカスミ――天王寺叶純が、俺に問いかけた。
俺は彼女の方をチラッと横目で見ると、ガツンと両拳を打ち鳴らしながら足で地面を踏み鳴らした。
「お、おう! ぜ、絶好調だよ」
――挙動不審? ……黙っててくれ。
この両拳に装着した〝ガントレット〟と、両足に履いた〝グリーブ〟の二対一式の4点セットこそ、俺の新しい武器『破天荒地』だ。ガントレットが『破天』で、グリーブが『荒地』とのこと。
この武器の銘は叶純が考案したものらしい。
これが武器だと理解した視聴者の一部が、驚きを示す。
《――えっ! あれ武器だったの!? ただの防具かと思った》
《まあ、本来はガントレットとグリーブっていう防具だけどな。武器として使うのはロマンある》
《見た目カッコイイよなー! あの赤のラインが最高にクール》
《ヘルメットとマッチして、サイバーニンジャみたいだな! アニメキャラのコスプレとかでいそう!》
配信を常に行う探索者は見栄えを重視し、頭に防具を装着しない者も多い。例えば、叶純もその1人だ。
狂っていると思われるかもしれないが、SP――スピリット・ポイントによるバリアがあるから、頭に一撃を食らっても即ダメージとはならない。――ので、見栄えの方が優先されるのがこの業界だ。
俺もこれまで頭に防具は着けてこなかったが、武器の新調と合わせてよく似た意匠のヘルメットまで用意してもらえた。
形としては、ロードバイク用のヘルメットに似ているかな。流線形で、顔の前面は開いているから、視界が妨げられることもない。……くっ、俺の厨二心をくすぐるカッコよさだぜ!
『2人ともお疲れさま。このまま8階層も行っちゃう?』
「おう! まだまだ行けるぜ!」
「私も問題ないよ。――鋼侍のおかげで、楽をさせてもらってるし」
謙虚なことを言う叶純だが、きっちり俺の討ち漏らしを仕留めているあたりはさすがだ。
まあ、俺の新武器のお披露目ということもあって、手柄を譲ってくれてるんだろう。
……にしても、やっぱりちゃんとした武器は全然違うな。SPの通りが段違いだ。
結局のところ、バールは工具に過ぎなかったってことか。
素手? 論外だよ。
今なら、もう1回あの「アトラス」と戦っても、1人でボコボコにできる気がする――……言い過ぎか?
『だーかーらー! 動きが速すぎるんだってば! 配信のことも考えてよね!』
「……ああっ! またやっちまった!」
《速すぎて見えなーい》
《ハセコー、さららちゃんに迷惑かけんなよなー》
《いいぞ、もっとやれ》
こんな感じで、さららや視聴者たちと冗談みたいなやりとりをしながらも、叶純と俺で順調にモンスターの討伐を続けた。
……ワザトジャナイヨ?
この日の探索で俺たちが討伐したモンスターの数は、八王子ダンジョン内の総数の8割近くにまで上った。それは、管理局から指示された間引きのノルマをゆうに超えていた。
――俺と叶純の関係がちょこっと変化したのは、この後の話だ。




