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#39 墓参り×2【鋼侍視点】

 11月5日、土曜の午後。

 俺――破瀬(はせ)鋼侍(こうじ)は、妹のさららと共に都内のある大きな霊園を訪れていた。

 両親の墓参りのためだ。


 この日は、ちょうど4年前に他界した両親の命日でもあった。


「――掃除まで手伝ってもらって悪いな」

「気にしなくていいよ。手持ち無沙汰(ぶさた)だったし」


 昨夜、ギルドでさららとその話をしていたとき、なぜかカスミもついて来るという話になった。

 最初はさららが誘ったんだったっけ? 寧々(ねね)さんも妙に積極的だったような……

 別について来ても構わないけど、冷静に考えると少しおかしいような……?


 まあ、俺とカスミは午前中も別の用事で一緒だったから、そのついでだとも言えるかな。以前、カスミが発注した俺の新武器の試着と調整に行って来たのだ。

 それに、なんとカスミのお母さんも同じこの霊園で眠っているのだそうだ。


 ――え? 昼食はどうしたのかって?

 ……カスミと2人で食べたよ。


 別に、今までだってダンジョンに一緒に行くとき、同じ席で食事をしたことぐらいある。

 ……休日は初めてだが。


「――ご両親がどうして亡くなったのか、聞いてもいい?」


 墓石の前で3人そろって手を合わせた後、カスミがそんなことを聞いてきた。


 特に、隠すようなことは何もない。

 ちらっと視線を送ると、さららもうなずいていた。


 俺は記憶をたぐり寄せながら答える。


 両親――破瀬(はせ)(まもる)祭離(まつり)は、同じ日に亡くなったんだ。


「……親父と母さんが乗ってた飛行機が墜落(ついらく)してね。――4年前、2人は結婚20年記念でヨーロッパ旅行に出かけてたんだ」


 そう語ったところ、カスミの中で記憶に一致する事件があったらしい。


「4年前の航空機事故……――それって確か、クラリオン・ヨーロピアン航空の?」

「あ、あぁ……そんな名前だったかな?」

「合ってるよ、お(にい)


 ……なんとかヨーロピアンとしか覚えてなかったわ。


 えーっと、確かあの事故では乗客250人の内9割が亡くなったんだよな。

 21世紀に起きた最悪の航空機事故の1つ、とか言われていた。

 機体は、アルプス山脈に墜落して炎上。ほとんどの人は即死したらしい。


 その事故の詳しい原因は、未だ不明のままだ。

 当時、原因としてバードストライク説やエアポケット説などが挙がってたけど、結局ブラックボックスを解析しても確かなことはわからなかったそうだ。


 4年前、最初にニュースで事故のことを知ったときは、まさかと思った。

 血の気が引く思いで乗客リストを調べ、両親の名を見つけたときは目の前が真っ暗になった。


 泣きじゃくるさららをなだめながら、歯を食いしばって悲しみに耐えた。


 ――せめて、両親の遺体だけでも帰って来たのは、不幸中の幸いだったんだろう……


「――それから、2人で暮らしてるの?」

「ああ」


 もちろん親戚にも連絡を取ったんだが、ちょっと相続周りでゴタゴタがあったりして、最終的にそうなった。

 その話は、あまり思い出したくはないな……。


「ご両親は、探索者ではなかったの?」

「うん。2人とも探索者適性はなかったはずだよ」


 俺に探索者資質があるってわかったときには、2人とも喜んでくれたなぁ。

 E級って探索者ランクとしては下から2番目だけど、人口比的には1万人に1人しかいないからな。一般人から見れば、十分に特別な存在だと言えるだろう。


 そんな会話をしながら、俺たちは続いてカスミのお母さんのお墓の方に足を運んだ。

 天王寺(てんのうじ)藍海(あいみ)――墓石に刻まれた文字を見て、俺は彼女の本名を知った。

 手入れは行き届いていて、掃除の必要はなさそうだった。



「――私が物心ついたときには、もう母は亡くなってたんだ」

「…………」


 カスミの身の上話を聞きながら、俺とさららは沈黙を守っていた。


 なんて答えればいいのかわからん。

 どういう暮らしだったのか、想像もつかんなぁ……


「父さんは今でこそ私に甘いけど、小さい頃は厳しくてね。子どものときは、ちょっとコワいって思ってた」


 そう言ってカスミは、当時を懐かしむような笑顔を見せた。


 ――それはまあ、わかるような気がする。

 俺の親父があんな人だったら、毎日ビクビクして生活してたわ。


「いま思えば、私との接し方に戸惑っていたのかも。仕事も忙しかっただろうし、男手1つでの子育てはきっと大変だっただろうね」

「……確かに」


 なにせ天下の天王寺グループのトップである。きっと分刻みのスケジュールで行動しているだろう。

 当然、ベビーシッターや家政婦を雇ったりもしていたのだろうが、子育てを他人に任せきりにはしなかったということかな……?


『――君に娘の安全を頼むことになる、父親の気持ちをわかってほしい』


 初めて会ったとき、あの人はそう言っていた。


 カスミをすごく大切に想っているということがよく伝わった。

 あのときはひどい目に遭ったが……もし俺が逆の立場で、さららがどこの馬の骨とも知れない男と付き合い出したとしたら――と考えると、共感しかないな、うん。



 墓参りを終え、俺たち3人は霊園の出口に向かって歩いていた。


「さららはこの後、友達と予定があるんだよな?」


 俺がそうたずねたところ――


「あ!」


 さららが急にすっとんきょうな声を上げた。


「? どうした?」


 なんだなんだ。


「その予定、友達にドタキャンされちゃったの!」

「えぇっ?」


 なんじゃそりゃ。


 すると、さららはカバンに手を入れ、今日行く予定だった水族館のチケットを2枚取り出す。


「チケットもったいないから、お(にい)叶純(かすみ)さんと一緒に行ってきて! 叶純さん、お願いします!」

「はっ?」「えっ?」


 さららは俺にチケットを押しつけると、「寧々(ねね)さんからオペレーターの補習受けて来る」と言って、さっさと走り去った。


 後には、あっけにとられた俺とカスミが取り残された。


 …………は?





お読みいただき、ありがとうございます。

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