#33 警報【叶純視点】
鋼侍に付き添って、約1年ぶりにJ-EMSを訪ねた次の日。
私――天王寺叶純は、『スター・ウィッシュ』のギルド本拠地で、叔母である神楽屋寧々姉さんと話をしていた。
「――鋼侍のS級探索者への昇級申請、出しておいたわ」
「そう……」
姉さんの言葉を、私は沈んだ声で受け止めた。
異例の速度での昇級申請。
それは、3日前に鋼侍が龍ノ顎ダンジョンで挙げた華々しい戦果によるものだ。
探索者業界は実力主義。――誰もが実力に見合ったランクにつくべし、とされている。
私は、鋼侍の昇級を祝福すべきなんだ。
……それを理解しているのに、素直に喜べずにいた。
その理由は――
「鋼侍がS級に上がったら、ギルドを離れないといけないんだよね――」
私の言葉に対し、姉さんは複雑な表情でうなずいた。
「契約も残ってるし、猶予はあると思うけど……いずれはね」
契約というのは、鋼侍と『スター・ウィッシュ』の間で交わした業務契約のことだ。
契約期間は1年。でも、だからといって残りの1年間、一緒にいられるかはわからない。
「まさかこんなに早いなんてねえ……。盲点だったわ」
姉さんがため息交じりにボヤいた。
確かに、無名の新人探索者がこんなに短い期間でS級になるなんて、誰も思わないだろう。
でも、私は違った。
「私は――法律で決まってたなんて知らなかった。てっきり、暗黙の了解なのかと……」
探索者法。
正式名称、「探索者及び探索事業者に関する法律」。
その条文の1つが、次に示すものだ。
〝特定等級(S級)に該当する探索者を、同一の事業所内において複数名所属させてはならない〟
なんでこんな条文が――と思うが、S級探索者の力量を踏まえてみれば、決して理解できない話じゃない。
A級以下と隔絶した力を持つS級の探索者が1つのギルドに固まっていたら、業界におけるそのギルドの立場は絶対的なものになってしまう。――いわゆる独占禁止法に近い考え方らしい。
もう1つの理由として、S級探索者が対処すべきS級ダンジョンが全国各地に散らばっていることが挙げられる。
1つのギルドで、遠く離れた複数のダンジョンの対応をするのは困難だ。それなら、最初から土地に根ざしたギルドにそれぞれを所属させておく方が合理的だ。
(――鋼侍と、離れ離れになっちゃう……)
その考えが頭に浮かぶと、私は心臓を押しつぶされるような不安を感じた。
――いつの間に私の中で、鋼侍の存在がこんなに大きくなっていたんだろう……?
まだ、出会って2週間しか経っていないのに。
「もしかしたら――――」
姉さんが何か言いかけた、ちょうどそのとき、
――耳をつんざくようなハザード音が、室内に激しく鳴り響いた。
音の発生源――それは、姉さんと私のDフォンだった。
――何かが起こった。
私と姉さんの間に緊張が走る。
すぐにそれぞれのDフォンを手に取る。その瞬間、姉さんのDフォンの画面に着信を知らせる表示が現れる。
「はい。『スター・ウィッシュ』のネイです」
「ネイ」というのは姉さんの探索者ネームだ。
続けて姉さんのDフォンから聴こえてきた声に、私は覚えがあった。
『寧々先輩、いま大丈夫ですかっ!?』
ダンジョン管理局の津川さんだ。
鋼侍をスカウトするとき、顔を突き合わせて話をしたことは記憶に新しい。
管理局からの公的な連絡にも関わらず、津川さんの口調はやや乱れていた。
「……何かあったの?」
姉さんが深刻なトーンで問い返した。
――続く津川さんの言葉は、私たち2人を戦慄させた。
『「ダンジョンブレイク」が発生しました! 「スター・ウィッシュ」に緊急出動を要請します!』
それは、比較的平穏だった日々を一変させる、青天の霹靂だった。
次話から新章に入ります。




