#30 「規格外」の解明へ【寧々視点】
新宿四谷にある、『スター・ウィッシュ』のギルド本拠地内。
「えっ、え……eXtra級ですって……!?」
『――ここだけの話にしてください。先輩だから、話したんです』
執務室の隣にある、小さな個室の中で。
私――神楽屋寧々は、電話で話をしていた。
相手は、ダンジョン管理局で要職を務めている津川瑠依。――彼女は私にとって、高校時代の元・後輩でもある。
この日は、我がギルド期待の新人探索者である破瀬鋼侍が、A級探索者として華々しいリスタートを切った、その翌日だった。
鋼侍の異常性について、瑠依が何かを掴んでいるのは察していた。……けど、まさかこんな爆弾のような情報が飛び出してくるなんて夢にも思わなかった。
『……実は、あのルーミエの配信騒ぎが起こるちょうど前の日に、破瀬君に探索者資質検査を受けてもらったんです』
それから、瑠依は語った。
あらゆる測定値が計器の上限を振り切っていたこと――それは、鋼侍の探索者としての潜在能力がS級を逸脱していることを示していた。
「とても信じられないわね」
『そ、そうですよね……』
私が思わず本音をこぼすと、瑠依が申し訳なさそうな声を出した。
なんでも、そのとき測定した記録は破棄してしまったのだそうだ。このとんでもない情報を漏らさないためと思えば、無理もない。
これが管理局の他の人間なら疑ってかかるところだけど、瑠依はこんな話を冗談でするような子じゃない。
私は、彼女の話を信じることにした。
『いま、ダンジョン庁所管の研究機関と秘密裏に調整を進めています。そこで破瀬君に検査を受けてもらいたいんです』
それが瑠依からの注文だった。
「……わかったわ」
私はすでに、ツテのある医療機関に鋼侍の検査をお願いしていたが、そちらは取り下げることにした。
「ヘタに話を広げない方が良さそうね」
『はい。情報が漏れたら大変なことになります。――世界中からスカウトが飛んで来てもおかしくない』
「そりゃ、そうよね」
なにせ、コトはX級だ。
現在、世界で1人しかいないのだ。
そこに、ふっと〝2人目〟のX級探索者が現れたりしたらどうなるか……――きっと、いま頭にぱっと思い浮かんだようなことが、ほぼそのまま起こるだろう。
つまり、そう――ドンチャン騒ぎだ。
それも世界中で、蜂の巣をつついたような騒ぎが一斉に起こるだろう。スカウトだけじゃない。ネットを含むメディアも大盛り上がりを見せることは想像にたやすい。
その後はどうなるか――……それはもう、今の私には考えが及ばない。
『――でも、魔素中和剤の件は知りませんでした。……まさか、そんな危険なことをしていたなんて』
瑠依のセリフの後半部分は、神妙な空気をまとっていた。
それも当然の話だ。
普通に考えて、中和剤も飲まずにダンジョンに入るなんて、自殺行為でしかないのだから……
「あなたも知らなかったのね」
電話の向こうで、瑠衣がうなずいたような間があった。
『はい。それについても念入りに検査してもらいましょう。何か、これまでの探索者界の常識をひっくり返すような発見があるかもしれません』
「……こっちとしては、もっと普通の探索者で良かったんだけど……」
私はうめくような声で言った。
非常識はもう、お腹いっぱいだった。
――その電話から2日後。
瑠依から『例の研究機関と話がついた』と連絡があった。
叶純がいるときに鋼侍に検査の話をしたら、なぜか叶純もついて行くことになった。……仲いいわね。
まあ、特に問題はないかしら?




