表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/34

#29 「国内最強」

 東京発、関西方面行き東海道新幹線の車内にて――。


「あの……。もしかして、『ゼオン』さんですか……?」

「うん?」


 窓際の指定席に座っていたゼオンこと四方津(よもつ)世音(ぜおん)は、隣の席の女性に遠慮がちに話し掛けられた。

 世音が返事をするよりも早く、彼女はサングラスに隠された素顔の主を確信したようだ。


「やっぱり! あの、私あなたの大ファンで――」

「しーっ! 静かにしてくれ。話すのは構わないが、騒がれるのは好きじゃないんだ」


 探索者業界のトップに立つ世音にとって、こういったファンを相手にするのは珍しいことではない。

 時としてハニートラップもあり得るため注意が必要だが……世音が確認した限り、この女性はただの一般ファンのようだった。


 世音はそれから彼女と同乗する2時間の中で、ある程度ファンサービスに務めることにした。


 ――ブルルルル……


 そんなあるとき、備え付けのテーブルに置いていた世音のスマートフォンが振動した。電話の着信だった。


「悪い――通してくれ」

「はい、どうぞ」


 世音は女性の前を横切って通路に出る。突き当たりの扉からデッキに出る途中で、スマートフォンの通話ボタンを押す。


「俺だ」

『あ、世音(ぜおん)さん。お疲れさんです』


 電話を掛けてきたのは、世音が団長を務める大阪の探索者ギルド『無明六文衆むみょうろくもんしゅう』の副団長だ。幸村(ゆきむら)という名のA級探索者である。


『さっきチャット見ましたけど、急に帰って来るってどないしたんですか? 予定やと明後日って話やったでしょう』


 そう。世音は予定を2日前倒しして大阪に帰っているところだった。

 その理由は――


「仕事が早く終わったんだよ」

『へ……?』


 幸村が間の抜けた声を上げた。

 世音の「仕事」とは、S級ダンジョン――龍ノ顎(りゅうのあぎと)ダンジョン――でのモンスターの間引きだ。それが予定より早く終わるということが理解できなかった。


『ああ……モンスターが思ったより少なかったっていうことです?』

「いや――むしろ多かったな」

『えぇ……? そんなら、なんで……?』


 思い当たった理屈を否定され、幸村は混乱した。


「――例の新人だよ」


 世音(ぜおん)は端的に答えた。

 新幹線は、間もなく名古屋に着くころだった。


『ああ、「ハセコー」ですね。あいつがまた、なんかやりよったんですか?』


 幸村も、ハセコーこと破瀬(はせ)鋼侍(こうじ)のダンジョン配信をよく観ていた。従って、鋼侍が常識外れの探索者だということは察していた。


 世音の表情がこわばる。

 彼は龍ノ顎ダンジョンでの鋼侍の戦果を思い出し、畏怖(いふ)を感じていた。


「……アイツ1人で、龍ノ顎ダンジョンにはびこるモンスターをさんざん倒して回りやがった。A級もS級もおかまいなしだ。カスミはさておき、俺はついていくのがやっとだった」


 そう答える間に、幸村が息を()む声が世音にもはっきりと聴こえた。


 ――あり得ない。


 それが幸村の心境だった。


『世音さんが……? ウソでしょ、そんな……』


 世音は日本の全探索者の頂点に立つ男だ。

 いくらハセコーが常識外れとはいえ、ぽっと出の新人が世音を上回るなんて、あってはならないことだ。

 ――そう思った。


 しかし、


「ウソじゃねぇ。後で配信()とけ」


 他ならぬ世音がこう言った。


『観ますけど……世音さんより上言うたら、あのアメリカのバケモンぐらいしかおらんでしょ。アレと同類っちゅうことですかね?』

「……かもな」


 世音の予定より早い帰還に付随(ふずい)する出来事については、このような会話があった。

 それから2人は、世音が大阪を離れていた間の情報交換をかんたんに済ませ、通話を終えた。


 座席エリアに戻った世音は、再び先の女性の前を通って自席に腰を下ろす。


 その間、世音は東京で出会った規格外の新人探索者――鋼侍について、思いを巡らせていた。


 鋼侍は龍ノ顎(りゅうのあぎと)ダンジョンで、驚異的な戦闘力を見せつけた。


 確かに未熟な探索者らしく、技術面ではまだつたないところが目立つ。

 単純に基礎能力(スペック)でゴリ押ししているだけ――そう言えなくもない。

 しかし、そのスペックが他を圧倒している。


 世音は戦闘技術に関しては国内最高峰だと自認していたが、ダンジョン内で戦った場合、鋼侍に勝てる気がしなかった。

 両者の間には、それほど基礎能力に開きがあった。


 ……アレはもはや、〝S級〟などという枠には収まらず――――



 フッと、世音は乾いた笑いを漏らした。


「――いよいよ、俺も〝国内最強〟の看板を下ろすときが来たか……」


 そう口走った後、世音はふと隣の席に顔を向けた。

 ――「『ゼオン』のファンだ」と語った女性が、信じられないものを見る目で彼を見ていた。


「えっ……?」


 『〝国内最強〟の看板を下ろす』――その意味が少し遅れて、女性の頭の中で理解されつつあった。

 それは彼女にとって、ゼオンがゼオンでなくなるということに等しかった。


(あ……やべ)


 世音は失言に気づいた。

 今の発言が探索者界隈(かいわい)に流れたら、大ニュースになってしまう。


 世音は無理やり笑顔を作って、女性に話し掛ける。


「…………な、な〜んちゃって。驚いたかな?」


 ――このあと世音は、なんとか女性を言いくるめて、先の発言をなかったことにした。




お読みいただき、ありがとうございます。

★評価、ブックマーク、暖かい反応に感謝します!


本日(5/9)は昼と夕方にも更新します☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ