#28 S級ダンジョン再訪【叶純視点】
私――天王寺叶純が、国内最強と言われるS級探索者の四方津世音さんと出会ったのは、6年前のことだった。
当時、U-17世界探索者競技会の代表選手に選ばれた私は、現役探索者の世音さんに指導を受ける機会があったのだ。
「――このダンジョンに来るのも久しぶりだなぁ」
世音さんの声が、広々とした洞窟の空間に拡散していった。
いま私、鋼侍と世音さんの3人でパーティーを組んで、S級ダンジョンである龍ノ顎ダンジョンに入場していた。
「前にも来たことあるんスね」
「おうよ。モンスターの間引きでな」
鋼侍と世音さんが、そんな会話をしていた。
S級ダンジョンの探索・攻略はひと筋縄では行かない。
ダンジョン内の魔素総量が危険域を超えてしまわないように、全国に散らばるS級探索者同士で連携して、定期的にS級ダンジョンでモンスターの間引きを実施している。
今回、世音さんは龍ノ顎ダンジョンで間引きを行うために上京してくれた、というわけだ。
洞窟内を歩いていた私たちは、あるとき同時に足を止めた。
「――左前方、数はひとつ」
私の言葉に左右の2人もうなずいた。
物陰から姿を現したのは、体長3メートルにも及ぶトカゲに似た巨大モンスター、バジリスクだ。A級だが、猛毒を持つ厄介な敵だ。
「俺が行こう」
世音さんが大剣を持って前に出た。
あの剣は『竜殺し』という、世音さんの代名詞とも言える武器だ。刃渡り120cmに及ぶ両手剣だが、世音さんはSPなしでも片手で振ることができる。
世音さんの接近に気づいたバジリスクが、壁から天井に跳んだ。立体的な動きで惑わせた上で攻撃を仕掛けるつもりだろう。
――だが、それは悪手だった。
「すっげ……」
鋼侍が感嘆の声を上げた。
――うん。さすが、世音さん。
天井に跳び上がったバジリスクは、体が前後に分断された上で、さらさらと光の粒子となって溶けていた。
跳んだ瞬間に、世音さんに斬られていたのだ。一瞬の出来事だった。
「……ま、こんなもんか」
世音さんは気負いも油断もないまま、大剣を背に納めた。
次に私たちの前に現れたのは、甲羅を背負った竜種のA級モンスターだ。
タラスク――純粋な竜系モンスターよりは一段劣るが、その固い防御を崩すのは困難だ。
「……コウジ、行けるか?」
「うっす」
大きなバールを担いだ鋼侍が、無造作にタラスクの方へ近づいていく。
このバールは、鋼侍が前の職場であるダンジョン管理局で譲ってもらったものだそうだ。
数日前、私と寧々姉さんは鋼侍の当面の武器について頭を悩ませていた。
すると、鋼侍がふと『何か使えそうなものがあった気がする』と言いだした。その後、鋼侍はフラッと管理局のどこかの事務所に行き、倉庫に死蔵されていたそれを二束三文で手に入れたらしい。
S級ダンジョン内でのインフラ工事にも耐え得るものだが、現在の規格に合わないためにホコリをかぶっていたのだとか……こう聞くと、常識外れの鋼侍にぴったりの武器だな。
――そんなことを回想しながら見守っていると、それまで何気なく歩いていた鋼侍の姿がふっとかき消える。
目標を見失ったタラスクがきょろきょろと左右を見回す。そのとき鋼侍は、タラスクの背後上空に跳び上がっていた。
「――どっせい!」
鋼侍がバールを振り下ろす。
バキィッという破砕音が響き、タラスクの頑丈な甲羅が紙細工のようにぺしゃんこになった。
直後、タラスクの全身は光に変化していく。
「……一撃かよ」
鋼侍の動きを見ていた世音さんが、喉をうならせた。
実際、大したものだ。
タラスクの防御力には、いつも手を焼かされていた。
私はなんとなく得意な気持ちになった――が、ここで1つ指摘しなければならないことがあった。
「鋼侍――またカメラからフレームアウトしてたよ」
「あ」
――配信的には、この私のツッコミまでを含めてお約束の流れになりつつあった。




