表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/32

#26 接触事故(後編)【寧々視点】

 私――神楽屋(かぐらや)寧々(ねね)にとって、その現場に居合わせたことは幸運だったと言うべきだろうか――


「か、叶純(かすみ)っ!? ――貴様、娘に何をしているんだっ!!」


 最愛の一人娘が見知らぬ男――鋼侍(こうじ)のことだ――にのしかかられている現場を目撃した和馬(かずま)義兄(にい)さんは、大慌てで靴を脱ぎ捨て、トレーニングエリアに足を踏み入れる。

 たぶん、組手中に()み合って倒れただけなんだろうけど、今の和馬さんに言っても伝わるとは思えない。


「ひ、ひえっ!?」


 鋼侍(こうじ)はびっくりしてるわね。

 ……無理もないわね。天王寺グループのトップがいきなり姿を現したんだもの。きっと、初対面だろうし。


「うわっ!」「きゃっ!?」


 ――あらあら、まあまあ……


 あせって起き上がろうとした鋼侍が、逆に叶純を組み伏せちゃったわ。

 お姉さん、ドキッとしちゃった。

 2人とも真っ赤になってるわね。初々(ういうい)しいわ〜。


 ――あ、和馬さんも真っ赤になってるわね。…………怒りで。


「貴様あぁぁっ!! さっさと離れんかぁっっ!!」


 和馬さんは鋼侍の上体を後ろから抱え上げて、強制的に叶純から引きはがした。

 ――残念。もうちょっと見ていたかったのに。


 ……それにしても、和馬さん相変わらずパワフルね。

 メチャクチャ忙しい人のはずなのに、トレーニングは欠かしてないんでしょうね。まあ、別に探索者じゃなくても体は資本よね。


 あ、鋼侍がきょとんとしてるわ。

 フォローした方がいいかしら?


「…………えーっと、どちら様で…………?」


 ――ウソでしょ!?


 今度は私が驚く番だった。


 ――天王寺グループのトップで、このギルドの社長(オーナー)でもある和馬さんの顔を知らない!?

 確かに説明はしてなかったかもしれないけど……。そのぐらい、知っといてよぉ……


 和馬さんも、開いた口がふさがらないって顔をしてるわね……


 このときには、もう叶純も立ち上がっていた。

 ――任せて、大丈夫かしら……?


「鋼侍、この人は私の父だ」

「お、お父さんっ?」


 叶純の言葉に鋼侍が驚きを表す。

 そのとき、和馬さんのこめかみから「プチンッ」……って音が聞こえた気がする。


「貴様に父と呼ばれる筋合いはないわぁっ!!」

「ひいいぃぃっっ!! ごめんなさいぃぃっ! 失礼しましたぁっ!!」


 怒りを噴火させた和馬さんに対し、鋼侍はほとんど土下座せんばかりに平身低頭していた。


「父さん、落ち着いて」


 何度も怒鳴って息切れしていた和馬(かずま)さんだが、叶純(かすみ)になだめられて少し落ち着きを取り戻していた。


「フンッ! 新しい探索者がこんな非常識な男だったとはな!」


 ごもっとも。

 それについては、まったく異論がない。


 こんな非常識な探索者は、私も彼以外に見たことがなかったから。


「……すいません」


 鋼侍はひたすら恐縮した様子で頭を下げる。

 そんな鋼侍の姿を見て、和馬さんの目つきがだんだん疑わしいものになった。


 ――本当にコイツが強力な探索者なのか? ……とでも、思ってそうな顔ね。


 この私の想像は、たぶん的を射ていたんだと思う。


「――なあ、君は非常に有望な探索者だそうじゃないか」

「は、はあ……そうなんでしょうか?」

「聞いているのは私だよ。しっかりしたまえ」


 和馬さんと鋼侍の間で、会話がドッジボールをしていた。


「どうだ、1つ私と組手をしてくれないか? ……いや、相手にならないのはわかっている。だが、君に娘の安全を頼むことになる父親の気持ちをわかってほしい。私にどうか納得をさせてくれ」


 やっぱり。

 和馬さんも無茶するなあ。

 ……和馬さんらしいといえば、その通りだけど。


 まあ、鋼侍の実力を知ってもらうのに、ちょうどいい機会かしら?


 ――そう思って(なが)めていたら、急に鋼侍が顔中にだらだらと汗をかきはじめた。


「い、いやあ……それは、ちょっと……」


 ……うん?

 様子がおかしいわね。


 視線を移すと、叶純も血の気が引いたような顔色をしている。

 ――あれ? ひょっとして、なんかまずい……?


「と、父さん。そこまですることないんじゃないかな……?」


 叶純が言うが、和馬さんはもう上着を脱いでネクタイを外していた。


「叶純、下がっていてくれ。男には引けないときというのがあるんだ」

「えーっと、鋼侍はたしかに強いんだけど、そこまで強くはないというか……」


 叶純がしどろもどろでそう言うと、和馬さんは逆に全身に覇気(はき)をみなぎらせた。


「なに――? それは聞き捨てならないな。そんなヤツがお前の足を引っ張りでもしたら大変だ。――さあ、破瀬(はせ)君! 用意はいいかね!」

「うえぇっ!? いや、ちょ、ちょっと待っ……!」


 和馬(かずま)さんの激しい気迫を受け、鋼侍が戸惑いながらも構えを取る。


 ……シロウトくさい構えねぇ。――そんな構えで大丈夫なの?


「行くぞ! うおおおおぉぉっっ!!」

「――ぐはあっ……!」


 次の瞬間、体重80kgを超える和馬さんの全力のタックルを受けた鋼侍は、トレーニングエリアの端まで吹っ飛んでいた――。


 ………………あれ?


「まさかまともに食らうとはな! 油断でもしたかね? ダンジョンでは一瞬の油断が命取りだろう! さあ、立ちたまえ。もう1本だ!」

「ち、違うんだ父さん! 話を聞いて!」

「ええい、下がっていろと言っただろう!」


 ヒートアップした和馬さんは叶純の制止を振り切り、鋼侍を無理やり立ち上がらせては、再び畳に叩きつける。


「どうした! それでも探索者かっ! さあ、私をねじ伏せてみろ!」

「ぐえっ! ふぎゃっ! ちょ、ちょっと待って……」


 ――結局、鋼侍は合計で10回ぐらい畳の上にダウンしていただろうか。


 肩で息をし始めた和馬さんと鋼侍の間に、叶純が体を割って入ったことで、この組手は強制終了した。


 そのときには鋼侍はグロッキー状態で、体のあちこちに痛々しいアザを作っていた。




 まさか、鋼侍がダンジョン外ではSPを使えない体質だったなんて、知らなかったわ……。

 それを叶純から聞いたとき、私の中の鋼侍の「非常識(ろく)」に新たな1行が追加された。


 それから、一時は(あき)れ果てた和馬さんが鋼侍をクビにしかける場面があった。ので、叶純と私で必死に弁解した。最終的に、鋼侍のダンジョン探索の動画を見せることで、なんとかクビは回避できた。


「――いいか。必要以上に娘に近づくなよ」

「ハ、ハイ!」


 そう言って鋼侍に特大の釘を刺した上で、和馬さんはギルドから立ち去った。


 以上、和馬さんがギルドを訪れて、たった1時間の内に起こった出来事だった。




お読みいただき、ありがとうございます。

「面白かった」「応援したい」と思ったら、★評価を5つまで増やすと作者のモチベーションもMAXになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ