#23 ダンジョン・オペレーター(前編)【さらら→鋼侍視点】
『――ギルドで働きたい?』
お兄が探索者として、ギルド『スター・ウィッシュ』に所属することが決まった、その日の夕方のことだ。
私――破瀬さららは、学校帰りに四谷にある『スター・ウィッシュ』の本拠地を訪れていた。……お兄には、内緒だ。
『はい。高校ではダンジョン学を取っています。……何か、私にできることはありませんか?』
『アルバイトってことね』
私は、『スター・ウィッシュ』の団長である神楽屋寧々さんと話をしていた。
寧々さんは、叶純さん以上に背が高く、抜群のプロポーションを持った女性だ。……探索者って、こんなすごい人たちばっかりなのかな……。
それはさておき、事前に連絡をしておいたおかげで、ギルドに着いてからスムーズに寧々さんと話すことができた。
『お兄さんの力になりたい――そういうことかしら?』
私はコクリとうなずいた。
『……兄がみなさんに迷惑をかけないか、心配で』
そう言うと、寧々さんはにっこりと笑った。
その笑顔は、私の記憶に新しい叶純さんの笑顔と重なった。
『しっかりしてるのね。私にも姉がいたから。あなたの気持ち、わかる気がするわ』
――――お姉さん? もしかして…………
『あの、神楽屋さんと叶純さんって、ひょっとして――』
私が問おうとしていることがわかったのだろう。
寧々さんは笑みを深めた。
『叶純は私の姪よ。姉が彼女の母親、というわけ』
ああ、やっぱり。
どうりで面影があると思った。
寧々さんが若々しいから、てっきり叶純さんのお姉さんなのかなと思った。叔母ということは……――きっと、寧々さんとお姉さんはそこそこ歳が離れていたのだろう。
『ダンジョン・オペレーターって知ってる?』
その後、寧々さんが発した問いに、私は首を縦に振った。
『ダンジョン・オペレーター。探索者のダンジョン活動を支援するお仕事ですよね。ルート選定とか、ダンジョンに関するリアルタイムの情報支援……それと、ライブ配信のモデレーターなんかもやるんですよね?』
私が記憶している知識を述べると、寧々さんが目を丸くした。
『正解よ! よく勉強してるわね。……お兄さんより詳しいんじゃないかしら……?』
そうかもしれない。
お兄は意外と、基礎的な知識が抜けてるところがある気がする。
『――前線に行く探索者が増えたから、オペレーターを募集しようかと思ってたの。……興味はある?』
前線に行く探索者――それはもちろん、お兄のことだ。
寧々さんの問いに、私ははっきりとうなずいた。
†††
俺――破瀬鋼侍が、正式にA級探索者となってから2日後の夕方。
俺は1人で高輪のB級ダンジョンを訪れていた。ある企業からの素材採集依頼をこなすためだ。
「……えー、今日はカスミはいません。ギルドのオペレーターと共同配信でお届けします」
配信アプリをセットアップしてそう言うと、視聴者から落胆ややっかみのコメントがついた。
《なんだ、ハセコーだけかよ》
《つまんね。そんなら俺、抜けるわ》
《くっ……! 気安くカスミのこと呼び捨てにしやがって……》
《〝さん〟をつけろよ、デコ助野郎》
……るっせえなあ。〝さん〟つけると逆に怒られんだよ。
そんな視聴者らの身勝手なコメントを尻目に、通話アプリを起動して『スター・ウィッシュ』のオペレーターと通話をつなぐ。
「……あー、あー。オペレーターの方、聴こえますか?」
『――はい。よく聴こえるよ』
「え……?」
俺は、デバイスを通じて聴こえてきた声に混乱した。
それは非常に聞き慣れた――しかし、そこにはいないはずの人物の声だったからだ。
《……あれ? どしたん?》
《なんかあったんか》
配信アプリでも俺の声を拾っているため、視聴者がリアルタイムで反応していた。
俺は恐る恐る、オペレーターの女性に問い掛ける。
「さ、さらら……?」
『そ。私がオペレーター。……驚いた?』
――通信機の向こう側で、さららが楽しげに笑っているような気がした。
意外すぎる展開に、俺はしばらく硬直してしまった。
《サ・サララ、とは……?》
《昔、そんな歌あったっけ》
《……もしかして『サンサーラ』?》
《早く攻略始めろよー》
そんな視聴者のコメントが目に入ったが、その意味を考えることさえできなかった。




