#21 武器とは【叶純視点】
元・配信施工員の破瀬鋼侍は、とても不思議な人物だ。
私――天王寺叶純は、今日もその認識を新たにした。
『きっと、私以上の武の達人に違いない』
そう思って予備の刀を貸したんだけど、まさか一撃でダメにしてしまうなんて……
――かと思えば、何十匹もの上級モンスターを武器も使わずに倒してみせる。
魔素中和剤という、絶対に飲むべき薬を飲まないし、
それなのに平然としていて、自分の異常さに無自覚だ。
――――もう、わけがわからない。
わからないからこそ――――目が離せない。
私はまた、胸の奥がワクワクと高鳴るのを感じていた。
「…………――すみ、聞いてる?」
「えっ?」
いけない。
叔母――姉さんが話していたみたいだ。
姉さん――神楽屋寧々という名の私の叔母は、物心つく前に母を亡くした私にとって、父に次いで身近で大切な存在だ。
「……ごめんなさい。ちょっと聞き逃しちゃったかも」
「あら、そう? ――鋼侍の武器の話よ」
姉さんが改めて言うと、鋼侍が申し訳なさそうに頭を下げる。
「――すいません。カスミさんの武器を折ってしまって……」
「『カスミ』ね。『さん』は要らないよ」
聞き捨てならない言葉があったため、私はすぐに訂正した。
……鋼侍が目を丸くして私を見ている。
――なにかな?
「……えぇっと、S級探索者を呼び捨ては恐れ多いっていうか――」
「は?」
「――ひっ」
思わず低い声を出してしまった。
――私より強い人が、何をばかなことを言ってるのやら……
「ランクとか関係ない。それに、鋼侍ならS級もすぐだよ。――なにせ、マンティコアも拳一発だったんだからね」
私がそう言うと、鋼侍はそのことを思い出したようだ。
「マンティコア――……ああ、あいつか」
こともなげに言うよね。
どれだけすごいことか、わかってるの?
「まあ、探索者は実力主義だから、可能性は十分あるわね」
姉さんも同意を示してくれた。
――ただ、ちょっと話が脇道にそれてしまった。
姉さんが、パシッと手を打ち鳴らす。
「話を戻しましょう」
そうだ、鋼侍の武器の話をしなければ。
――これは、目前に差し迫った課題だ。
私は折れた刀を姉さんに見せる。
「……S級魔鋼製の刀が一太刀と持たなかった。並の武器じゃ鋼侍の力には耐えられなさそうだね……」
姉さんは、きれいに2つに分かれた刀身を見て、ギョッと目を見開いていた。
「魔鋼」というのは、ダンジョンで採掘される魔素を含んだ金属のことだ。これもダンジョンやモンスターと同じように、魔素を含む量によってF級からS級まで分類されている。
厳密には、地球産の金属と混ぜ合わせて合金にしているそうだけど……――まあ、細かい話は置いておこう。
姉さんが呆れた様子で言う。
「――じゃあ、いっそしばらく素手のまま行ってみる?」
「……姉さん、さすがにそれはちょっと……」
いくら鋼侍が異常とはいえ、無茶だと思う。
銀座ダンジョンにはいなかったが、モンスターの中には不定形で全く打撃が通じないものや、触れるだけでこちらにダメージを与えるような特殊な性質・材質のものもいる。
そんな多種多様な相手に無手で挑ませるのは、さすがにちょっとあんまりだ。
「――冗談よ。……でも、どうしようかしらねぇ」
姉さんは、人差し指をこめかみに当てながら考え込んでいた。
「姉さん、私に任せてくれない?」
私が一歩前に出て言うと、姉さんと目が合った。
「何か考えがあるの?」
私はコクリとうなずく。
「――鋼侍にぴったりの武器のアイディアがある」
ずっと考えていた。
今日の鋼侍の戦いぶりを見ていて、私の脳内で閃くものがあった。
そのひらめきが、やっと頭の中で形になってきた。
あの武器なら、きっと鋼侍も自分の持つ力を十分に発揮できるだろう。
「こんな感じなんだけど――――」
私はネットで検索した資料を元に、2人にアイディアを説明した。
「……なるほど。面白いわね」
「――すっげぇ……! カッコよさそうじゃん!」
2人からも好反応が得られた。
こうして、『スター・ウィッシュ』の御用達である武器メーカーに、この武器をオーダーメイドで発注することが決まった。
ギルドとして発注するが、細かな手続きは私が中心になって行う。
「……でも、そっちが出来上がるまでの間に合わせは要るわね」
――という姉さんの言葉も、もっともな意見だった。
オーダーメイドの武器がひと晩で完成する……なんてことはないのだから。
「そうだね。……なるべく頑丈な――……鈍器とかかな…………」
鋼侍の力に耐えられるものというと、それぐらいしか思いつかなかった。
姉さんが、諦めたような顔でうなずく。
「――そうなるわよね。その方向で、既製品を見繕ってみましょうか」
「お手数かけます……」
鋼侍は、バツが悪そうな顔でそう言った。




