#19 A級探索者ライセンス【鋼侍視点】
引き続き、銀座A級ダンジョンにて。
俺――破瀬鋼侍は、S級探索者のカスミと共にダンジョンの探索を続けていた。
隣を歩くカスミが俺に言う。
「――さっきの件、あれはあれで鋼侍の配信の特徴としては面白いような気もするけど……」
「あれ」というのは俺の悪癖――カメラの死角に回り込んでしまうことだ。
数年間の配信施工員としての習慣から、俺の体はつい、カメラの映らない場所へと吸い寄せられてしまうのだ。
「――今回は、管理局に活動実績として認めてもらわないといけないからね。次こそはちゃんと頼むよ」
「わ、わかった。次はちゃんとカメラの前で倒すよ」
カスミの言葉によって、俺は当初の目的を再認識した。
……しかし、俺の配信の特徴か。
確かに、探索者としてダンジョン配信をやるなら、他者との差別化も大事だよな。
《……なるほど〜。「姿なき探索者」って響きカッコイイね》
《カスミン、センスあるやんけ!》
《カスミって脳筋キャラだと思ってたけど、ちゃんと配信のアドバイスもできるんだね》
《配信施工員は暗殺者だった…………?》
視聴者の反応も上々だ。
――――え? カスミって脳筋なの? ……すごく的を得た意見だと思ったんだが……
……ま、まあ、それはさておき、ひとまず〝暗殺者〟モードは封印せねば。
さっきカスミが言ったように、今回の探索の主目的は俺の探索者としての活動実績を示すことだ。
それには、俺に交付された探索者ライセンスが関わっている。
ルーミエの取材配信という異例の形で実力を示した俺に対し、管理局が与えたライセンスは「暫定A級」という特例的なもの。
その意味をわかりやすく言い換えると、「A級並の強さは持ってそうだけど、探索者登録してから改めて実力を証明してね」ということだ。
……なので、ちゃんとカメラの前でモンスターを倒す必要がある。
《――ところでハセコー、武器はどうしたの?》
ふと、そんな視聴者のコメントが流れ、カスミがピクリと反応した。
――そういえば言ってなかった気がするが、俺とカスミはいまDフォンのアプリで動画を共同配信している状態だ。
武器、か……
その話は、もういいだろ?
《武器はお亡くなりになりました》
《カスミン、大激怒》
からかうような視聴者のコメントに、カスミの体がワナワナと震えた。
カスミは腰に差した主武器である太刀の他に、背中にもう1本の刀を背負っている。
……が、そこに収まっている予備の刀は、現在ぽっきりと折れている。
たまらず、俺はカスミに声を掛ける。
「さっきはゴメンな。刀、折っちゃって……」
そう。刀を折った犯人は俺だ。
「……さっきも謝ってもらったから、もう大丈夫」
カスミは力なく返事をした。
――いや、だってさ。
刀なんか持ったの、生まれて初めてだったんだよ。
あんなに簡単に折れるなんて思わなかったよ。
カスミが武器を用意してくれるって言うから、従っただけなんだけど……。
『――いっそ、また素手で戦ってみる……?』
モンスターとの初戦で刀を折った直後、そう言ったカスミに俺は恐怖を感じた。
折れた刀を見る彼女の瞳からはハイライトが消えていた。
《――あの刀、たぶん億は下らないぞ》
《……さすがS級探索者の装備……》
《ハセコー、早速借金生活か》
《ざまあ》
配信上で不吉なコメントが流れていた気がするが、俺は努めてそれらを無視した。
そんな流れで、俺はこの身ひとつでモンスターと戦うことになった。そして今のところ、それは非常に順調だった。
……気のせいか、素手でモンスターを倒すたびにカスミが複雑な表情を浮かべているような……
ひょっとして、素手で戦うのってふつうじゃないのかな……?
――そんなこんなはありつつ、この探索の後、俺は正式にA級探索者の資格を得ることができた。




