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#15 四者面談(前編)【後半さらら視点】

 配信施工員の破瀬(はせ)鋼侍(こうじ)が、300万の視聴者の前でオークロードを撃破したその日のこと――。


 ダンジョン管理局、東京都エリア統括の津川(つがわ)瑠依(るい)は頭を抱えていた。

 目下の悩みは、彼女にとって末端の部下にあたる鋼侍(こうじ)についてだ。


 配信施工員として有能な鋼侍だが、どうやら探索者としても規格外の実力を秘めているらしい――。

 瑠依(るい)がその事実に気づいたのは、ちょうどオークロードの一件が起こる前の日のことだった。


 そこで瑠依は、鋼侍の今後の処遇について慎重に熟慮・検討しようとしていた。


 ――しかしその矢先に、B級探索者「ルーミエ」による取材配信によって、鋼侍の実力の一端が300万の人々の目にさらされてしまったのだ。


「やっぱり、彼の実力は確かだった……。でも、こんな形で世間にバレちゃうなんて――」


 部下の報告によって事件に気づいた瑠依は、あわててPCを操作し、ルーミエの配信が与えた影響をインターネット上でひと通りチェックした。

 そのときには、「配信施工員」というワードがSNS上で一大トレンドになっていた。


(話題沸騰(ふっとう)って感じね……。ギルドのスカウトも動いている)


 状況は刻一刻と悪くなっていた。

 早晩、多くの探索者ギルドが鋼侍に接触を仕掛けるだろう。


 ――もし鋼侍がどこかのギルドと探索者契約を結んでしまったら、管理局は貴重な配信施工員を1人失ってしまう……。


 急いで手を打たなくては。


 そう判断した瑠依は、事件が起きた翌日の午前中に、さっそく鋼侍をダンジョン管理局の東京本部に呼び出すことにした。

 鋼侍にとっては、探索者資質検査を受けてから2日ぶりに本部に(おもむ)く形になった。




    †††




 ダンジョン管理局、東京本部。

 私――破瀬(はせ)さららが、この建物に入るのは生まれて初めてのことだ。以前に社会科見学で行った支所よりもずっと大きい。


 その近代的な建物の中へと、私たち3人はカスミさんを先頭にして入館した。


「ありがとうございました! とっても助かりました!」


 中に入るや否や、私はカスミさんに頭を下げて礼を言った。

 お(にい)もあわてて、私の横で頭を下げていた。


 私たちが無事にここまで来られたのは、間違いなくカスミさんのおかげだ。

 お兄を目当てに集まっていた多くのギルドやメディア関係の人たちは、S級探索者であるカスミさんの威光に気圧(けお)され、遠巻きに見ることしかできなくなっていた。


 ……にも関わらず、カスミさんは私たち2人に頭を下げられて困惑していたみたいだ。

 ちょっと焦った様子で、ばたばたと両手を左右に振っていた。


「いやいや、礼には及ばないよ! ……それより、これからどうするんだい?」


 カスミさんの問いに、姿勢を戻したお兄が答える。


「管理局のエリア統括(マネージャー)の人と話すことになってます」

「エリア統括――そうか……」


 すると、カスミさんは少し考えるしぐさを見せ、こう言った。


「できれば、私もその席に同席させてもらえないかな? たぶん、破瀬(はせ)さんの今後についての話があると思うんだ。現役探索者の目線で、私からアドバイスできることもあると思う」


「――え? いいんですか?」


 私は反射的に返事をしていた。


 カスミさんのようなS級探索者に同席してもらえるなんて、願ってもないことだ。これ以上の幸運はない。


 私たち兄妹(きょうだい)に、カスミさんの申し出を断る理由などなかった。



    †



「初めまして。お兄さんにはいつもお世話になってるわ」

「こちらこそ、兄がお世話になっています」


 東京都エリアのマネージャーの方は、津川(つがわ)瑠依(るい)さんというそうだ。

 スーツが似合う知的な印象のお姉さんで、きっとすごく仕事ができるんだろうな、と私は思った。


 お(にい)とだけ会う予定だった津川さんは、予定にはなかった私とカスミさんの存在に驚いていた。が、交渉した結果、2人とも同席を認めてもらった。


「……妹さんはともかく、カスミは完全に部外者だと思うのだけど」


 津川さんの言葉はもっともだったが、私は次のように弁解した。


「いえ、私も兄も探索者の常識にはうといので、ぜひ同席してもらいたいんです」

「――そういうことなら、仕方ないわね」


 カスミさんは「中立的な立場から助言する」と明言していた。

 ――大変ありがたい。

 これで、知識不足から管理局側に言いくるめられることはないだろう。

 津川さんが一瞬、にがい表情をしていたのを私は見逃さなかった。



「単刀直入に言うわ。破瀬君には今後、ダンジョン対応戦隊を兼任してもらうことを考えてるの」

「えぇっ! マジっすか」


 津川さんのストレートな物言いに、お兄が驚いた。


 4人にしては広い会議室で、私たち3人は津川さんと向かい合って座っていた。


 ダンジョン対応戦隊――通称「ダン対」だ。

 この組織については、私も通りいっぺんのことぐらいは知っている。

 ダンジョン庁――ダンジョン管理局の上位組織――に所属するダンジョン対策のための戦力(・・)。構成員は例外なく探索者の資格を持っており、自衛隊からの出向者が大半と聞いたことがある。


 ――つまり、ほぼ軍隊だ。


 そんな中に飛び込んで、お(にい)はやっていけるんだろうか……?


 私は心配になった。

 いつもぽけーっとしているお兄に、軍隊のイメージは全くなかった。


 それから津川さんに公務員のお給料の話なんかも説明してもらった。……が、やや生々しい話なのでここでは触れないことにする。


 ……まあともかく、お兄がダン対という組織に属することに、私はあまり賛同する気にはなれなかった。

 お兄自身も、ピンと来てはいない様子だった。



「……では、私からも1つ提案させてもらいたい」


 話が一段落したところでこう言ったのは、他でもないカスミさんだ。


「――正直に言うよ。私は破瀬君にウチのギルドに入ってほしいと思ってるんだ」

「「えぇっ!?」」



 それは私たち兄妹にとって思いがけない、望外と言うべき提案だった。



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