#16 四者面談(後編)【さらら視点】
「――正直に言うよ。私は破瀬君にウチのギルドに入ってほしいと思ってるんだ」
「「えぇっ!?」」
カスミさんの意外すぎる提案に、私とお兄の驚く声がハモった。
カスミさんの申し出は、ぶっちゃけスカウトそのものだ。
その意味では、朝のあのブラックなんとかいうギルドや、ダンジョン局の前に群がっていたギルド関係者たちと変わらない。
しかし――現金なようだけど――、相手は他ならぬカスミさんである。日本の探索者業界のトップにいる人だ。
……お兄にとって、この人のギルド以上の環境なんてないんじゃないか――私はそう思った。
「――まさか、カスミ自ら動くなんてね……。それほど、破瀬君を買ってるってわけ?」
ダンジョン管理局で要職を務める津川さんが、鋭い視線でカスミさんを射抜く。
そんな津川さんに対し、カスミさんは涼しい笑みを浮かべながらうなずいた。
「ええ、彼の実力は計り知れない。――ぜひ、私のバディになってもらいたい……と思ってる」
「えぇっ!?」「そんなに!?」
お兄と津川さんが同時に驚きの声を上げた。
……お兄ぃ……いったい、どんなガチャやってこのSSR探索者引き当てて来たのよ……
すると、カスミさんが急にモジモジと身じろぎしだした。かと思えば――
「か、勘違いしないでくれよ。あくまで、ダンジョン探索のバディだからね!」
――わかりきったことを、わざわざ念を押すように言ってきた。
……いやいや、さすがにそんな勘違いはしませんよ……――ってか、ダンジョン探索以外のバディって、何?
「うーん……。確かに、他の大手のギルドに行かれるよりは、あなたの所の方が安心ね」
意外なことに、津川さん――ダンジョン管理局側からしても、これは悪い話ではないらしい。
……後から聞いた話によれば、カスミさんのギルド『スター・ウィッシュ』はほぼカスミさんのワンマンギルドで、管理局にとっては交渉しやすい相手なのだそうだ。
また、津川さんが『スター・ウィッシュ』の団長さん――神楽屋寧々さん――と旧知の仲であることも大きかったようだ。
「……1つお願いがあるの。破瀬君には、これからもできるだけ配信施工員としての仕事も受けてほしいの」
津川さんは、切実な声でうったえた。
その様子にうっすらと苦労がにじんで見えた。……管理職って大変なのかなぁ。
カスミさんは、小さくあごを引く。
「本人が良ければ、ギルドとしては構わないよ。依頼はギルドを通してほしいけど」
「出費はかさむけど、仕方ないわね……」
私たち兄妹をよそに、トントン拍子で話が決まっていく。
でも、決して悪い話ではなさそうだ。
お兄はトップ探索者の仲間入りをし、今後も配信施工員の仕事をすることもできる。
何よりも、国内最高峰のS級探索者のいるギルドに入れる。
この意味は、非常に大きい。
今朝の時点で私は、「私がお兄を守るんだ」という気持ちでいた。
……が、フタを開けてみて、自分の認識がいかに甘かったかを思い知った。
ただの女子高生が1人立ちふさがったところで、押し寄せる大人たちの前では何の防波堤にもなれなかった。
でも、カスミさんならきっと、マスコミや他のギルドの人々が兄に近づくのを簡単に防いでくれるだろう。
それは、さっきの管理局前での一連の流れを見ていれば明らかだった。
――この人にお願いするのが一番いい。
私の意思は決まった。
改めてカスミさんに向き直り、しっかりと頭を下げる。
「兄を、よろしくお願いします」
カスミさんは、満面の笑みでうなずいた。
「ああ、任せてくれ!」
――――と、話がまとまったところで、そこまで空気になっていたお兄がおずおずと声を上げた。
「――――あの……。俺の意思はどうなるんでしょうか…………?」
あ。
……そういえば、お兄の意見、全然聞いてなかった。
カスミさんも津川さんも、そう言われて初めて気づいたと言うように、ハッとして口を半開きにしていた。
――……まあ、もう決まりでいいんじゃないかな。
別に、不満なんかないよね? あるの?
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次話は、いよいよ1章のエンディングとなります。




