#12 トンネルの先【一部さらら視点】
――引き続き、探索者ギルド『スター・ウィッシュ』の本拠地にて。
S級探索者の叶純がギルドの団長である寧々に、〝異常に強い〟配信施工員の動画を見せた後の話だ。
「……姉さん、彼をウチのギルドに呼べないかな?」
「――――!」
叶純のそのセリフが、寧々の思考を現実に引き戻した。
いまだ動画を観たショックを引きずっていた寧々の頭脳が、素早く回転を始める。
「名案かも……――いえ、ちょっと待って」
彼――破瀬という配信施工員が、探索者として有望なのは間違いない。しかし、こんなときに探索者業界にいる同業者連中が考えることはみな同じだ。
寧々はPCに向き直り、探索者の情報が集まるインターネット上の複数のサイトをチェックした。チェック対象はSNS、掲示板の他、新人探索者のスカウト情報にまで及んだ。
その結果は、寧々が恐れた通りだった。
「……やっぱり、もう大騒ぎになってるわね。大手ギルドまでスカウトに動き出してるなんて……。出遅れちゃったかもしれないわ」
「そんなぁ……」
寧々の悲観的な見立てを聞き、叶純はあからさまに落ち込んだ。
そんな叶純の態度は、寧々から見ていつもより幼く映った。
(本当に珍しいわね。この子がこんな風になるなんて。それほど出会いが衝撃的だった……ってことかしら?)
「……なんとかできない?」
「うーん……」
かわいい姪っ子からすがるような目で訴えられ、寧々はしばらく考え込む。
――何か、一発逆転の手はあるだろうか……?
「あ……」
考え続けた末に、寧々はふと1つのアイディアに思い至った。
(……これ、上手く行くかな……? ――いや、たぶん可能性はある……)
頭の中で作戦を組み立てながら、寧々は叶純に確認の問いを投げる。
「……叶純は、この配信施工員の人と面識があるのよね?」
叶純はコクリとうなずく。
「一応はね。動画で顔もしっかり覚えたし、直接会えばわかるよ」
「それなら、一種の賭けにはなるけど――――」
そう前置きしてから、寧々は思いついた作戦を叶純に話した。
それを聞いた叶純の瞳に希望の光が宿る。
「…………なるほど。それなら――――!」
†††
「さーら! これってあなたのお兄さんじゃない!?」
「えっ……?」
私――破瀬さらら――は、例の〝事件〟が起こったとき、普通に学校にいた。
私が通う学校は、中野区にある普通科の高校だ。
休み時間中、私に探索者「ルーミエ」の配信動画を観せてくれたのは、親友でクラスメートの雫――滝沢雫だ。
スマートフォンの画面に映る動画を観て、私はハッと息を飲んだ。
「お兄……」
動画の中で、お兄――鋼侍兄――はモンスターの顔を蹴り飛ばしていた。
わざわざコメントを見なくても、ダンジョンの勉強をしている私にはわかる。
これは、ただのオークじゃない。上位種だ。オークロード――A級モンスターの一種。
動画に見入っていると、雫が興奮した様子で言う。
「すごいわね! あのルーミエよりも強いって、ネットで騒ぎになってるわよ!」
「そうなんだ……」
どうやら、お兄がすごいことをやってみせたらしい。
確かに、A級モンスターなんてひと握りの人たちしか倒せないはずだ。
それを理解すると、私の胸にこみ上げる感情があった。
――どこかパッとしない、うだつの上がらない兄だと思っていた。
4年前に両親が亡くなってから、お兄は高校を中退してダンジョンで働き、私を学校に通わせてくれた。そのことには一番に感謝してる。
でも、お兄は家にいるとき、いつも疲れているようでボーっとしている。だから、私も早く自立して、お兄の負担を減らさなきゃ……って思ってた。
「――ふふっ」
気づくと、私は口元をニヤけさせていた。
モブの兄なんかじゃなかった。
まだよくわからないこともあるけど、ちょっと友達に自慢できるぐらいの兄ではあるみたいだ。
――それを、私は「嬉しい」と思った。
私の笑顔が伝染したのか、雫も楽しげに笑っていた。
「お兄さん、人気者になるかもね」
「え〜、そうかなぁ?」
私は口では困ったような声を上げながら、笑顔を止めることができなかった。
――私は、まだ知らなかった。
このときにお兄が起こした〝事件〟が、私たち兄妹2人の人生をひっくり返すほどの大きなターニングポイントになる――ということを。
ふと、教室の窓から外を見上げる。
雲ひとつ見えないほど、澄みわたった青空が広がっていた。




