#11 彗星現る
――東京都、某所オフィス。
「今すぐ、あの配信施工員の情報を集めろ! 大至急だ!」
「わかりました!」
B級探索者「ルーミエ」のダンジョン配信中に起こった、衝撃の事件。
その発生直後、ここ大手探索者ギルド『クロス・トレジャーズ』のバックオフィスは騒然となっていた。
「……これ、フェイク動画じゃないんですよね?」
「管理局の公式アプリでのライブ配信だぞ! あり得ないだろ!」
ただの配信施工員が、A級モンスターのオークロードを倒した――そのあり得ない事実が、探索者業界に台風を巻き起こしていた。
『クロス・トレジャーズ』は、「金太」と「銀太」というA級探索者の二枚看板を抱える、都内でも一流の探索者ギルドだ。
しかし業界の常として、優秀な探索者は常に不足している。
だからどのギルドでも、スカウト担当者は血眼になって新しい才能を探し求めていた。
――そこに彗星のごとく現れたのが、推定A級探索者以上の力量を持つ配信施工員だ。
無名だった彼が、どこかの探索者ギルドに属しているなどということもないだろう。
ルーミエのダンジョン配信から情報を得た各ギルドは、我先にこの新たな実力者をスカウトしようと動き出していた。
「――あ! ネットの特定班が住所を見つけたみたいです! 掲示板に情報が上がってます!」
「消される前に魚拓を取れ! 絶対にウチが1番にアプローチするぞ!」
激しいスカウト競争の現場では、時として企業倫理が危ぶまれるような行為が見られることさえあった……。
†††
神楽屋寧々は、広い邸宅の1室でPCの画面と向き合っていた。
この邸宅は、探索者ギルド『スター・ウィッシュ』の本拠地である。
『スター・ウィッシュ』の団長である彼女は、ギルドの運営責任を担っている。
ダンジョン攻略や企業からの依頼案件をどのように進めるか、計画を立てるのは彼女の仕事だった。
(――と言っても、ウチは結局あの子次第なんだけどね……)
……と、寧々は『スター・ウィッシュ』の看板探索者の姿を思い浮かべた。
――そのとき、この広い執務室の扉がバタンと開いた。
続いて、すっと背筋の整った若い女性が入室し、寧々のいる執務机に向かって颯爽と歩いて来る。
彼女はまさに、寧々がいま心に描いていた人物だった。
「――姉さん、聞いて!」
ノックもせずに入って来た彼女のセリフに、寧々は目を丸くした。
彼女は目をキラキラと輝かせ、見るからに興奮していた。
寧々は彼女が生まれた頃からよく知っているが、こんな様子を見せることはめったになかった。
「どうしたの、叶純。そんなにあわてて」
彼女の名は天王寺叶純。
日本に10人しかいないS級探索者の1人で、ギルド『スター・ウィッシュ』における不動のエースだ。
――むしろ、『スター・ウィッシュ』というギルドそのものが、彼女のために作られたと言っても過言ではない。
寧々は、叶純の叔母に当たる。
叶純との年齢差は10を数えるが、「オバさん」と呼ばれることだけは断固として拒否していた。
寧々自身も「ネイ」という探索者名で、B級探索者として活動していた。
しかし、叶純とは実力が離れていることもあって、最近はダンジョンから足が遠のいている。
――続いて叶純が発した言葉は、寧々の想像を遥かに越えていた。
「見つけたんだ! 私より強い探索者を!」
「――……えぇっ!?」
寧々はそれを聞いて、まず自分の耳を疑った。
叶純は、日本国内で最強に次ぐ実力の探索者だと言われている。
探索者としての活動実績ランキングでも、昨年は3位になった。1位2位の探索者歴やギルドの規模を考えれば、個人としての実績では決して劣っていない。
寧々はギルドの団長として、彼女についていける探索者が身内にいないことを心苦しく思っていた。
……が、まさか日本で彼女より強い探索者が新たに現れるなんて、夢にも思わなかった。
(そんなこと、あり得るの……?)
寧々が信じられないのも無理はなかった。
「――これを見て」
そんな寧々に対し、叶純はスマートフォンの画面を見せる。
あまりオシャレにはこだわらない叶純だが、さすがに無骨なDフォンを常用するほどではなかった。
「なになに……?」
渡された画面では、つい先ほどリアルタイム配信されていたダンジョン探索のアーカイブ映像が流れていた。
『――人が作った配信設備をぶっ壊してんじゃねぇっ!!』
そこではちょうど、破瀬鋼侍という名の配信施工員がオークロードを蹴り飛ばしていた。
それを見た寧々は、目元を指で押さえ、マッサージをするようにもみほぐした。
「……私の目がおかしいのかしら……? 配信施工員がオークロードを蹴り飛ばしたように見えたのだけど……?」
そんな寧々の言葉に、叶純はうんうんと頷いた。
「わかるよ。私も信じられなかったからね。――でも、私はこの目で直に見たんだ」
「直に? それって、もしかして――」
明るい笑みを浮かべた叶純が、ひときわ大きくうなずく。
「うん! 昨日話した、私を助けた謎の配信施工員だよ」
「!」
寧々は目を見開いた。
昨日、叶純に話を聞いたときには、とても信じられなかった。
しかし、いま目の前にはその証拠とも言える映像がある。
「間違いない。この映像の人物と彼は、同一人物だ!」
そう言って叶純は、当時を思い返すように空中を見上げる。
――その頬は、うっすらと赤く染まっていた。




