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「……掲示板ハローワークで新たな依頼を探すより、以前の『拠点防衛任務(警備員)』の方がマナ(現金)の蓄積速度は速いはずだ!」


 佐藤健二は再び雑居ビルにある「守護者派遣ギルド(警備会社)」の受付に立っていた。彼にはどうしても金が必要だった。たとえそれが

資本主義という魂の呪縛に囚われることになったとしてもだ。


「……受付嬢よ、俺を再び最前線へ送れ。新たな聖剣に捧げる供物を集めるため、俺の得物(交通誘導灯)はかつてないほど鋭利になっている!」


「あー、佐藤さん。ちょうどよかった。現場は3月いっぱいまでなんで、4月からはもうシフトが無いって伝えようと思ってたんです」


 対応する事務員の女性は相変わらず健二の言ってることがよく分からないので、少しめんどくさそうな顔をしながら聞き流すと

予定表を見ながら淡々と話す。しかしそれは、健二にとっては衝撃的な戦力外通告であった。


「……シフトが無いだとッ!?」


 健二の脳内で雷鳴のような衝撃音が轟いた。


「なぜだ! なぜ3月の『終わりの月』をもって、俺の任務クエストが途絶える!? 虚無の王の侵攻が止まったというのか? それとも

この地の魔力供給が断絶されてしまうというのか!?」


 事務員は健二の異常な剣幕にも動じず、淡々と答える。


「違いますよ。仕事の大半を占める役所からの工事発注が3月までなんです。年度末ってやつでね。ほら、予算を使い切らないと来年から

予算を減らされちゃうでしょ? だから忙しいのは3月までだったんです」


「……何だと?」


 健二は愕然として立ち尽くした。彼の瞳にはこの世界の支配者たる「役所ハイ・カウンシル」の理が、あまりに卑俗で、あまりに

稚拙なものとして映し出された。


「……使い切らねば、減らされる? それはつまり何だ? 要するに貴様らは必要のない穴を穿ち、必要のない障壁を築いているのか? ただ

『魔力の残量』をゼロにするという儀式のためだけに……?」


「よく分からないけど、大人の事情ってやつですよ」


「……大人の事情だと? フン、笑わせるな!」


 健二は鼻で笑い、デスクを両手で叩いた。


「それはただの『子供の小遣い』のような匙加減ではないか! 来月の小遣いを減らされたくないがために無理に欲しくもない玩具(工事)を

買い漁る子供……。この世界を統治する者たちはそんな低レベルな行動原理で因果律をもてあそんでいるのか!?」


「まあ、そう言われればそうかもしれませんね」


 事務員はどうでもよさそうにキーボードを叩き始めた。健二は深い軽蔑と共に事務所を後にする。


(……おのれ。資本主義という名の呪縛はついにここまで人を怠惰にさせたか……。全能の神を自称する官僚どもがその実、小遣い帳をつける

小児並みの知性しか持っておらんとは。……そんな空虚な理由で俺の『巡礼』が阻まれるというのか!)


 彼は4月の柔らかな風に吹かれながら新宿の路上で独り憤っていた。彼にとって道路工事は「魔界への沈下を防ぐ封印の儀式」であったはずだ。それがまさか

行政の「予算事情」というあまりに世俗的でくだらない理由で発生し、そして消えていくものだったとは……。


「……ふっ、ハハハ! 壊れている。やはりこの世界は根底からシステムエラーを起こしているのだ!」


 世界の歪み、それに気付いているのは勇者である自分だけだ。だが勇者といえど、資本主義の呪縛の中では満足な「巡礼」すらままならぬ。結局は

世界の歪みに気付くと同時に、仕事を失ったという絶望を得ただけであった。


 佐藤健二の人生の「予算」はすでに使い切ってしまったのか? それはまだ誰にも分からなかった……。


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