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「……鍛錬だ。『虚無の王』の神速のカウンターを打ち破るには、この聖剣『真実の残響』と完全にシンクロせねばならん!」
深夜二時。六畳一間の「暁の拠点」にて佐藤健二は上半身裸で模造刀を構えていた。公園の童に「センスが無い」と罵られたショックは
すぐには癒えず、彼の精神は今や薄氷のように危ういバランスで研ぎ澄まされていた。内なる魔力の高まりの影響で壁のシミが蠢く虫型の
魔物の影に見える。彼はそれを仮想敵とし、狭い室内で聖剣を振るった。
「フッ! ハッ! ……ふむ、やはりこの剣は重さが俺の『魂』に直結している。一振るいするごとに魔力が吸い取られていくのがわかるぞ……」
実際にはただ健二の筋力が運動不足で低いだけである。だが健二は汗だくになりながらも必死に「虚無の王」を打ち破る秘奥義を
編み出そうとしていた。
「これだ……! 上段からの唐竹割りを偽りとし、足元からの斬り上げにより空間そのものを断ち切る『次元斬』。おお、見える! 約束された
勝利の栄光がこの目に見えるぞォ!!」
健二は限界を超えた妄想の昂ぶりと共に渾身の力で聖剣を横一閃に振り抜いた。
「絶・次元斬……ッ!!」
パキンッ!! 乾いた衝撃音が部屋に響き渡る。それは健二が放った横薙ぎ型の「次元斬」が古い木造アパートの支柱を直撃した音だった。
「…………え?!」
思わず健二の動きが止まった。手元の剣が明らかに短くなっていることに気付いたからだ。残ったのは柄とそこから10センチほどだけ
伸びた部分のみで、残りの長い刀身は物理法則に従って床を転がると部屋の隅で乾いた音を立てて跳ねた。
「…………折れ……た? ……聖剣が?」
健二は手の中の「折れた持ち手」と部屋の隅に転がった「折れた刀身」を交互に見つめた。数秒間の圧倒的な沈黙。彼の脳内で流れていた
壮大なオーケストラがピタリと止まった瞬間だった。真実の残響……。古の神々の血を啜り、真理を写し出すはずの聖剣が
築40年のアパートの柱に対してあっさりと敗北を喫したのだ。
「……嘘、だろ……?」
健二の膝がガクガクと震え始める。それは単なる聖剣の物理的な破損のみでなく、彼が必死に繋ぎ止めていた「自分は勇者である」という
物語の屋台骨そのものを揺るがすようなことだった。
「……あの童の言う通り、やはり千円の剣は聖剣ではなかったということなのか……?」
突然、あまりに生々しい「屈辱」が彼を襲った。リサイクルショップで買った安物を聖剣だと言い張り、小学生にそれを罵倒され必死に反論する
30過ぎの男。しかし結局は小学生の言ったことこそが「真実」であった。そのあまりの屈辱が彼の心に羞恥心と共に流れ込んでくる。
「……ああ、あああッ……!」
健二はその場に崩れ落ち、折れた聖剣を抱きしめるようにして畳に額を擦りつける。それは魂の底が抜けたような絶望であった。健二は
真っ暗な部屋の中で折れた聖剣の残骸を握りしめたまま、朝まで泣き続けた。
あまりにも救いのない「自壊」という形で佐藤健二の「虚無の王」への挑戦は先送りになった。果たして彼のメインストーリーが
進行することはあるのか? それはまだ誰にも分からなかった。




