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「……フフ、ハハハ! 溢れ出す……溢れ出すぞ! この聖剣から放たれる神聖なる波動が!!」
佐藤健二は夕方の児童公園のベンチで白銀(ねずみ色)に輝く模造刀を膝に置き、恍惚とした表情を浮かべていた。
健二の視界はもはや現実の景色を一切受け付けない。彼にとってこの木材を銀色に塗っただけの刀身は、最果ての地で鍛えられた
「真実の残響」であり、持っているだけで周囲の空間すら浄化する最高位のアーティファクトであった。
「これさえあれば我が魂に潜む転生者のチートスキルも無効化できる。……ふむ、だが一応はこの地で剣の慣らし運転を行うのも悪くないな」
健二が不敵な笑みを浮かべながら、おもむろに聖剣を鞘からシャキーンという脳内効果音と共に抜いた時だった。
「あ、それお土産屋さんで売ってるやつだ! でもボクが持ってるやつの方がカッコイイよ!」
唐突に聖剣への罵倒を浴びせかける声がした。イラッとした健二が声のした方を睨みつけると、そこにはさっきまで
砂場で遊んでいた小学生くらいの男の子が、健二の持つ聖剣を指差していた。2人の間にひりついた空気が流れる。
「……何だと? 貴様、今何と言った?」
「それお土産屋さんで売ってたやつでしょ? でもデザインが古臭いし、刃の所の色とかダサいね。ボクが持ってるプラスチックのやつの方が
色が綺麗でカッコイイよ!」
健二の眉間が激しくピクリと跳ねた。本来なら勇者たるもの、無知な童の言葉など笑って聞き流すべきである。しかし聖剣を
手にしたことによって内なるプライドが肥大化した健二には、そんな大人の余裕はなかった。
「黙れ、無学な童よ! 貴様のその曇った眼にこの神聖なる輝きは理解できまい! これこそが聖剣『真実の残響』。単なる見た目の
美しさなどでその価値を測れるものではない!」
「えー、でもボクが持ってるやつの方がキラキラしてるよ? それに『真実の残響』ってなに? おじさん、ネーミングセンス無いね!」
「センスが無いだとぉッ!?」
健二はベンチから勢いよく立ち上がり、小学生相手に人を殺さんばかりの形相で詰め寄った。
「いいかよく聞け! 武器の真価はその名前や見た目ではない、宿る霊子の密度だ! 中でもこの聖剣は特別で、振るう者の意志によって
その形状を自在に変えるのだ! 貴様が持っているという見た目ばかり重視した安物の剣などと一緒にするな!!」
「それただの木で出来た刀なのに形が変わるわけないじゃん。おじさんバカなの? どう見てもそっちの方がボクのより安物だし!」
「貴様! それは死を覚悟したうえでの発言だろうな!!」
「わ~、こわ~い! おまわりさ~ん! こっちに変質者がいま~す!」
人聞きの悪いことを叫びながら逃げ去る小学生と、それをムキになって追い掛ける健二。だが脚力の差は明白で、どんどんその差が開いていく。
「……はぁはぁ。あの逃げ足の速さ、どうやらただの童ではなかったようだな。『虚無の王』の間者か? だとすれば狙いはこの聖剣……」
健二は膝をつき、その胸にきつく聖剣を抱きしめたまま震えた。端から見ればその一連の光景は、公園で子供に言い負かされた挙句、逆上して追い掛けるも
まんまと逃げられて屈辱に震える情けない大人。というあまりに惨めなものだったが、自分を客観視できない健二が気付くはずもなかった。
「……しかし奴が間者であれば危ないところだった。あやうく奴の『ヘイトスピーチ』によって、この聖剣がただの1000円の観光地土産に
見えてしまうところだった……。あのガキ、次は持っているランドセルを頭から被せて泣きながら謝罪させてやる……!」
健二は砂を噛むような思いで立ち上がると、聖剣を大切に聖布(拾ったレジ袋)で包み、再び「虚無の王」との決戦に向けて
その魔力を溜め始める。果たして聖剣による浄化は「虚無の王」へと通じるのか? 健二のメインストーリーはまだ始まったばかりであった。




