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「……勇者としての旅路の先は長い。ならばそろそろメインストーリーを進めるべきだな」


 アパートの自室(暁の拠点)で健二は、枕元の「雷神の杖(ビニール傘)」を眺めて物思いに耽る。数々の戦場(コンビニ、工事現場、新宿駅)を

共に渡り歩いてきた相棒だが、今の彼には装備の充実こそが重要ではないかと思い始めていたのだ。


「雷神の杖(初期装備)もそろそろ限界だ。魔力を物理現象に変換する触媒としてはもはや力不足になってしまった。……今の俺に必要なのは

魂の深層から溢れ出す魔力を、殺意と共に一滴の漏れもなく鋭利な一撃へと変える究極の触媒!」


 健二の瞳に暗い情念の炎が宿る。


「……聖剣。この世界の偽りの理を切り裂き、魂ですら両断する。伝説の霊力が宿った一振りが必要だ!」


 彼は雷神の杖(ビニール傘)を手に取り外へと飛び出した。目的地は決まっている。新宿の裏路地にひっそりと佇む

「古の武器庫(リサイクルショップ・がらくた堂)」だ。雷神の杖も以前にここで購入した物だ。


 店内には時代に取り残された店名通りのがらくたが山積みになっている。しかし健二の目には埃を被った古いアイロンは

「魔力により熱を帯びる魔導鉄器」に見え、壊れたミキサーは「残忍な拷問器具」に見えていた。

 ふと健二が視線を感じて目を向けると、店主であろう老婆が不審な目で彼を見ていた。


「あんた、今日は何を探してんだい?」


「……聖剣だ。この世界の終焉を食い止める、ただ一つの希望!」


「……ああ、聞いたことがあるよ。あっちの棚にあった気がするね」


 健二は老婆の言葉通りの棚の奥へ進んだ。だがそこにあったのは、かなり型の古いダイソンの掃除機であった。


「……老婆よ。言われた場所には聖剣らしき武器など無いのだが?」


「ん? あんた吸引力の落ちない『ただ一つの掃除機』って言ってなかったかい?」


「『ただ一つ』の部分しか合っていないではないか!」


 珍しく健二がツッコミに転ずる事態となったが、彼は自力で店内を探し回り、ようやく目当ての品が並ぶコーナーに辿り着いた。

 それはバブル時代に観光地で大量に売っていたであろう、安っぽい模造刀(木製)だった。木製の鞘の塗装は色褪せて所々剥げ落ち、

柄には赤い安物の紐が巻かれている。だが健二が鞘からその刀身を抜き放った瞬間、彼の脳内で凄まじい「幻覚補正」が働いた。


「……ッ! これだ!!」


 彼の視界ではその安っぽい銀色の塗装が施された木製の刀身から、天を突くような白銀の光柱が立ち上っていた。健二の目には

色褪せた刀身は過去の聖戦であらゆる神々を屠り、世界の理を塗り替えてきたかのような風格を持って見えた。


「……見つけたぞ。伝説の聖剣『真実の残響トゥルー・エコー』! 長い間こんな卑俗な市井の店でその輝きを隠し続けていたとはな……」


 値札には「1000円」と書かれていた。……なんと物の相場の分からぬ老婆の哀れなことか! 健二は内心で老婆を嘲りながら

震える手でカウンターに1000円札を叩きつける。


「……釣りはいらぬ。この剣に宿る魂の重さに比べれば紙切れなど無価値に等しい!」


「そう。まいどあり」


 店主の老婆は特にツッコミもせず、淡々とした態度で1000円札をレジに入れる。健二は模造刀をしっかりと胸に抱いて店を出た。今日は

珍しく雨が降っていなかった。だが、健二の周囲には物理的な気象を無視した「嵐の予感」が渦巻いていた。


 「雷神の杖」はもはや必要ない。彼は公園のゴミ箱にかつての相棒であるビニール傘を無造作に突き刺した。


「さらばだ、古き友よ。これからはこの『聖剣』が俺の盟友となる!」


 健二は模造刀の柄を強く握りしめた。鞘からわずかに刀を抜くと、色褪せた銀色の鈍い輝きが目に入る。それが彼には「虚無の王」の邪悪な呪縛を無力化し、

見知らぬ転生者に侵されつつある己の魂さえも浄化する、唯一の希望に見えていた。


「……我が魂に巣くう転生者よ、震えて眠るといい。すぐに貴様の魂はこの真実の刃によって儚く霧散するだろう!」


 新たな盟友となった聖剣を背負い、不敵な笑みを浮かべて夜の街を闊歩する佐藤健二。その姿は狂気という名の鎧を纏い、

もはや誰の手も届かない高みへと近付いて行っているように見えた。


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