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「金か? 結局は金(魔力)なのか……?」
佐藤健二は多摩川の河川敷――彼にとっての「黄昏の湿地帯」をふらふらとした足取りで彷徨っていた。転生者に取り憑かれた
自身の魂を救うために必要な50万円を超える除霊費用。それを捻出するために彼が導き出した結論は多くの
『異世界戦記』で語られる王道の金策だった。
「……そうだ。俺には中世の知識とこの偽りの世界の素材を融合させる『調合スキル』があるはずだ。無駄に高性能なポーションを作り出し、
この世界の冒険者(プロスポーツ選手)や貴族どもに売りつければいい!」
だが、そこまで考えて健二はふと立ち止まった。
「……しかし、そもそもあの『ポーション』というのは何の液体なのだ?」
当然だが健二には医学の知識もなければ義務教育以上の化学の素養もない。ただ、ありふれた物語の中でそれは「飲むと何故か怪我が治る緑色の液体」として
描かれていることしか知らなかった。
「……ふむ、危うく本質を見失うところだった。形ではなくそこに込められた『生命の息吹』こそが重要なのだ。ならばこの黄昏の湿地帯(河川敷)に
自生する高位薬草を素材として精製すれば、自ずとポーションが完成するはずだ!」
健二は泥にまみれた手で地面に生い茂る雑草を次々と引き抜き始めた。彼の瞳にはただのセイタカアワダチソウは「黄金の魔導草」であり
犬の散歩道に生えているタンポポは「深淵の癒し葉」、そしてよく分からない怪しい苔は「精霊の残した残滓」に見えていた。
「これだ……! この溢れんばかりのマナの波動(草の匂い)。これこそが高位の『ポーション』の原材料に相応しい!」
健二は拾ったレジ袋一杯に詰め込んだ「薬草(ただの雑草)」を抱えてアパートの「錬金術工房(小汚いキッチン)」へと帰還した。鍋に
聖水(ただの水道水)を並々と注ぎ、そこに泥がついたままの草をそのままぶち込む。
「燃え上がれ、紅蓮の炎よ。不純物を焼き払い真理の雫のみを抽出せよ!」
傍らで健二が叫びながら強火で煮立たせること数十分。キッチンには青臭さと土の臭いとが混じったおよそ食欲をそそらない
異臭が立ち込め始めた。鍋の中では茶褐色に変色したドロドロの液体が地獄の釜のようにブクブクと泡を吹いている。
「この鼻を突く芳香……! マズいな、魔力が濃縮されすぎている証拠だ。耐性の無い常人ならばこの香りを嗅ぐだけで
精神が崩壊するかもしれん!」
健二はタオルで鼻を覆い必死に鍋をかき混ぜる。鍋から立ち昇る高熱を受け続け意識が朦朧としながらも、彼はその汚泥のような液体の中に
ガチャでSSRが出た時のような虹色の光を確かに見た。しかし、それは健二に残された希望がみせた幻であった。
「……完成だ。これぞ死者ですら蘇らせる至高の霊薬――『ハイポーション:試作零式』だ!」
彼はまだ熱いその液体を空のペットボトルへと慎重に移し替える。濁った茶褐色の液体に沈殿する泥と草の繊維。健二はそれを誇らしげに見つめる。
「これを製法のメモと共にあの『黄金の変容塔(セミナー会場)』の錬金術師に持っていく。これならば担保として十分なはずだ。いや、もしくは
街にいる高名な冒険者(プロスポーツ選手)に1杯10万円で売り歩くのも悪くないか? ふっ……資本主義の壁など、このハイポーションの品質の前では無力だ!」
彼はまだ熱いペットボトルを大事そうに懐に抱える。
「待っていろよ資本主義の傀儡ども! 貴様らを金銭の呪縛から解き放ち、俺がこの世界を救済してやる!!」
その夜、佐藤健二はまだ熱気を放つ自作のポーションを抱きしめながら深い眠りへと落ちていった。内なる魔力の高まりは
ついに彼を「生産職」として目覚めさせたのだ。
翌朝、彼はその「特級呪物」を抱えて街へと繰り出す。健二の瞳にはその汚れたペットボトルの中身が、朝日に照らされて
まるでダイヤモンドのような輝きを放っているように見えていた。




