お迎え
私はフルルーチェ。
聖イルミナス教会の聖女と言われているけれど、そんな大層な存在じゃない。
私はただの母親。
そして教会のベッドで眠ることしかできない、無力な人間。
だけど、本当は起きているの。
ううん。起きていると言っても、体は眠っている。
意識だけ起きているような感覚。
しかも、あの子がレストリアと呼ぶ魔法に意識を重ねることもできる。
不思議な状態。
だからなのかしら、周りの声はよく聞こえる。体は動かないけれど。
あの子が泣いているとき、動かない体がもどかしい。
抱きしめてあげられなくてごめんなさい。
いつもいつも、自分の無力感に襲われている。
昔少しだけ一緒に過ごした、勇者さんが来た時も。
本当に怖かった。
だけど、あの子が守ってくれた。
でも本当に怖いのは、あの子を守れないことだと思った。
あの子はこんなにも私のことを守ってくれている。
愛してくれているのに。
そして今日も、声が聞こえてくる。
『いい? あんたらはここにいなさい!』
『姉ちゃんは!? 姉ちゃんはどうすんのさ!』
『私は大丈夫! 明るさとかわいさとしぶとさが取り柄だからね!』
『姉ちゃん! おいマリンも縫物ばっかしてないでさ!』
『イクラウスちゃんとの、約束だから……』
『そんな場合じゃ……あれ、姉ちゃんがいない!』
あの子の大切なお友達を、あのお方が連れてくる。
ここにいれば安全なはずだけど……。
そもそも安全なはずの教会で一体何が起こっているの?
少しして、部屋の外が慌ただしくなるのが聞こえた。
『聖女様を別室に移動させるってよ』
『は? 聞いてないぞ』
『知らないのか? 大教皇がついに悪魔の子の排除に動き出すんだと。そのための……まあ人質だな』
『何を言っている! 聖子様をそのように呼ぶな』
『もう聖子様じゃねえんだよ。あの教皇すら賛同しているんだぜ?』
『……私はどかぬ。聖子様の母上殿をお守りする!』
『じゃあいいよ。お前ら、やるぞ!』
『なっ!? お前ら――ぐはっ!』
『おとなしく言うこと聞いてたらいいのによ。行くぞ……何だ? 部屋に入れないぞ?』
見張りの方を気絶させた、仲間であるはずの神官。
彼らはやっぱり私には近づけなかった。
だけど、聞き捨てならない言葉が聞こえた。
『悪魔の子』
誰のことだろう。あの子のはずがない。
あの子は誰よりも優しくて、たくさんの人を助けてきたじゃない。
そんな呼び方されていいはずがない。
『人質』
私のことだ。
体が動かないから。
あの子を縛る鎖になってしまうんだ。
そんなこと許されない。
主が許しても、私が許さない。
私のせいであの子が苦しむなんて、絶対に許さない!
動け、体! 動け!
今すぐあの子を助けに行くの!
あの子の居場所は私が作る!
子どもが危ないときに動かない母親がいるもんですか!
『おい、やめろ!』
その声は自分の内側から聞こえた。
『まだその時じゃない!』
今じゃなかったら、いつだって言うの!
『お前の体はまだ――』
だけど、今の私を抑えることは誰にもできない。
例えそれが主であろうとも。
「……聖女様?』
「クゥちゃん、おはよう。マリンちゃんも」
「お義母様! お目覚めに!?」
「しーっ」
かわいい子たちが騒がないように、口に指をあてる。
あの子が作ったお洋服を着て、今にも飛び出しそうな子たち。
危ないところだったわね。
「一緒に行きましょう」
「へ? どこに……?」
「お義母様……!」
それはもちろん決まっている。
いつも横で見守っていてくれたウサギのぬいぐるみを大事に抱え、部屋の外へと向かう。
「もちろん、あの子のお迎えよ♪」




