第90話 不意打ちを防ぐ0歳児
「ではゴレイヌ殿。2層に来たところで改めて情報の確認をしましょうか」
「はい」
「まずこの新ダンジョンはアンデッド種が巣くっている可能性が高い。現在はランクBまでの存在を確認している」
「ですな。今のところ最高踏破層は6層までと聞いております」
「構造の変化や他の種の魔物が出た話は今のところ聞かないが……油断せず行こう」
「うむ」
神殿側も手ぶらで来ていた訳ではなく、ある程度の状況は把握していたらしい。
そして実際に1層を経て、パトルス側の得ていた情報の擦り合わせを行ったのかな。
そしてそれらはあくまで参考に、とのことだろう。
「では2層の探索を開始する!」
「つーってもよぉ、まだまだ冒険者だらけだな! ケケケ!」
「……その通りだが、黙ってろ」
スティングルの言う通り2層も相変わらず人が多い。
ダンジョンの構造的にも1層と大して変わっていない。
「スティングル、何で人がこんなに? さっさと奥に行けばいいと思うのですが……」
「あん? 魔物を倒して魔石でも回収してんだろ。奥に行くほど敵は強いからな、スケルトンなら倒せる程度の奴らってことさ」
「なるほど」
「それと……隠し部屋を探してる奴らもいるな」
「隠し部屋?」
「たまにあるんだよ。一見すると壁だが、実は壊せてその奥にお宝が……ってな」
スティングルが指をさしながら教えてくれる。
そこには壁をハンマーで思いっきり叩いている人がいた。
壁は全く破壊されず、叩いた人は反動で悶絶している。
「ケケケ! 勝っ櫛部屋以外のダンジョンの壁は壊せないからよ。失敗するとああなる」
「ああ……痛そう」
しかし彼らを止めることは困難だろう。
人は夢を追わずにはいられないのだから。
そんな夢追い人の冒険者を眺めつつ、気が付けば既に5層への階段まで来ていた。
「今のところ情報通りだ」
「うむ。先駆者に感謝を」
半信半疑であるとはいえ、それを頼りに進んでいるのだから早い訳だ。
ここまで僕の仕事はスティングルとロロップの仲裁くらいしかしていない。
「そろそろ、気を入れなおした方がいいんじゃない? おさぼりのスティングルさん!」
「あん? へーへー、わかったよ」
アレイザに言われ、渋々と言った感じでスティングルが先頭に立つ。
5層までくるとそれまでとは打って変わり、周囲には誰もいなかった。
内装も今までと大きく異なり、まるで地下牢のような見た目となった。
明かりは松明の光だけ、薄気味悪さも増している。
「ここからは難易度がぐっとあがるみたいよ。敵の脅威度が上がる……今まではスケルトンやゴブリンゾンビみたいなDやCランクだったのが、ここからはBランクが出てくるわ」
アレイザが緊張感を持って教えてくれる。
外での様子と異なり、彼女も気を張っているのだろう。
しかし、Bランクか。
確か先日おいしくいただいた『ドラゴンイーター』もBランクと言っていたな。
「いたぞ! 前方にトロルゾンビ!」
少し先を進んでいたスティングルが声を上げる。
「よぉし! お姉ちゃんのことよーく見てるのよ!」
「はい!」
そう言ってる間に、トロルゾンビはうめき声を上げながら突進してくる。
タンクのヴァスティーユが盾で受け止め、パトルスとスティングルが横からけん制するように攻撃を加える。
「“断ち切る風、一陣の牙──『シルファーブレード』”」
「おお!」
お姉さんの魔法が発動。
それと同時に前衛が一斉に退避する。
お姉さんがに持つ剣を振り下ろすと、風の刃がトロルゾンビに向かっていき、呆気なく首を落とした。
「さすがです! 詠唱も短いんですね!」
「まあね! 風は速さが1番だから!」
魔法の長ったらしい詠唱は、戦いにおいて命取り。
さすがはAランクの魔法使いということのようだ。
「『シルファーブレード』って基本的な魔法だけどぉ、どうしてBランクを倒せるかわかる?」
「はい! お姉さんが強くてかっこいいからです!」
「それもあるけど、秘密はこの剣です! 剣を使うことで、『シルファーブレード』のイメージが強くなるってこと!」
「ああ、そういうことですか」」
彼女が魔法を使ったときに用いた剣。
普通の魔法使いは杖のイメージだが、あえて剣を使うのはそういうことらしい。
「おい、先に進むぞ!」
「はいは~い」
トロルゾンビから魔石を回収していたらしいスティングルが声を上げる。
ダンジョンはまだまだ続く。
◇◇◇◇◇◇
その後も何度か魔物を倒しながら進む。
途中で別のパーティとすれ違ったが、彼らはこの階の探索を続けるらしい。
僕らは階段を見つけ、6層にたどり着いた。
「ここからは数組のパーティしか来れてねぇ。マジで油断すんなよ」
「ああ。敵はBランク、複数で来るらしい。もしかしたらイクラウスの力を借りるかもしれん」
「もちろん。必要でしたらお声掛けを」
これまで彼らが僕に攻撃させないようにしてくれていたのはわかる。
ダンジョンは戦いの連続、魔力の消耗を抑えるためだろう。
「……行くぞ」
これまでとは異なり、スティングルが周囲を見回すことが多くなった。
時にはナイフで壁を突っついたりしてる。
ああして罠の確認をしているのだろう。
「……待て。あそこのレンガ。触ると罠が作動する」
一見すると何でもないただの壁のレンガ。
言われてみると、何だか魔力を感じる。
魔力に敏感な人や扱いに長けている人間でないと、察知は難しそうだ。
「……スティングル殿もさすがですな」
「まあな。それだけが取り柄だからよ」
君のいいところ、他にもいっぱいあるよ。
「行く――いや、前方に敵! すまねぇ遅れちまった!」
進もうとした瞬間、スティングルの焦った声が上がる。
しかし――。
「わぁ、うしろからもてきさんがきてるよぉ!」
「ぴょんぴょん! ピンチだぴょん!」
しらじらしい演技ですまないが、彼らのお株を奪うのは申し訳ないと、今気付いたふりをする。
恐らくロロップも気が付いていたっぽい。
ということで、挟み撃ちになってしまった。
「まずい! 後ろは俺が盾になる! イクラウス様も頼む!」
「ぴょん」
パトルスの援護の判断の速さはさすがだが、それに反応したロロップの速さもさすがだった。
彼が僕の名前を呼ぶ頃には、敵の目の前に移動を完了していた。
そして――。
「アガーーッ!?」
「ぴょん。汚いぴょん」
ロロップの蹴りで爆散するトロルゾンビ。
彼の散り様を特等席で見ることになった僕。
一応言っておくが、強化魔法は使っていない。
「…………へ?」
「パトルス殿、彼女のことは気にしない方がよいですぞ。我々は前方の敵に!」
「あ、ああ……え?」
ゴレイヌも慣れたものである。
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